蝶は鳥にはなれずとも 3 (ページ29)

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アレ。ページ29

私は清隆と、そして心細そうにしていた愛里さんも入れての3人組で歩くことにした。
そこまで積極的でない人々の集まりな故か、のんびりとスローペースで歩みを続けていると、不意に上空の木々が風も無いのに不自然に揺れた。

『っ、清隆。』
「あぁ。上、何か居るな。」
「えっ？えっ？」

話に追いついていない愛里さんへの説明は、一旦後回しだ。
口を閉じて足を止め注意深く上を観察していると、見慣れた金髪が葉の隙間から覗いた。
脱力感からか、息が勝手に吐き出される。

『何だもう…驚かさないでよ、高円寺君。』
「やぁやぁプリティ・ガール！」

頭上では、私がそちらを見ていたのを見抜いていたかのような高円寺君の余裕振りがあった。

『やぁやぁ、じゃなくて。何故木の上で移動しているの？余計な体力を消耗させる前に、地面に降りてきたら？』

私の言葉に、高円寺君が高笑いする。
その間に、清隆がこっそり耳打ちした。

「アイツに言っても、無駄じゃないのか。」
『無駄でも声くらいかけるのが、「普通」なんじゃない？』
「そういうものなのか。」
『多分、面倒臭いことはスルーってスタンスは何かがズレているのよ。』

「普通」に擬態するのなら、これくらいやらないとね。
しかし高円寺君は、私にきちんとした返答も無しに勝手に木々の間を飛んで移動してしまった。
運動神経も抜群で、自然相手の対応も一切臆さない…一体何なのアレは。
同じ班員になった人々の、心への負担が気になるところだ。
だがそれよりも、私が気にかけるべきは微かに息が乱れ始めている愛里さんだ。

『愛里さん、大丈夫？少し、疲れてきてないかな。』
「ううん、平気。だけど、森の中って歩きづらいんだねぇ。」
『加えて、この暑さだもの。愛里さん、苦しくなったらすぐに言ってね。無理は禁物よ。』
「うん、ありがとう。」

愛里さんは疲れているようだが、負担にはなるまいと必死に笑顔だ。
清隆に目を向けると、彼もこちらを見ていた。
共に、同じタイミングで頷く。
あまり無理させずに、適当なところで引き上げようね。

先程の、高円寺君のことを思い出す。
身体能力のみならず、挙動に一切の迷いが無い。
クラスでもある種異質なため目立ってはいるが、かと言って授業全てをサボタージュしたり成績が低迷しているなどの情報も聞かない。
謎で、掴みにくい人だ。
暫く歩いて、開けた場所に出る。
遠くには、洞窟が見えた。
雨風も凌げる、良い場所だ。
思わず、感嘆のため息が出た。