蝶は鳥にはなれずとも 3 (ページ27)

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ちょっと怖いくらい。ページ27

隣の鈴音さんを、チラリと盗み見る。
体調が良くないということもあるのか、やはり浮かない顔だ。
清隆も同じことを思ったようで、鈴音さんに尋ねる。

「気が乗らないのか。」
「私向きじゃないもの。原始的な生活もそうだし、1人じゃないって所もね。」
『確かに。』
「貴方が私に言ってたことが、少しだけ現実になったかも知れないわね。学力以外で能力を問われるかも知れない…そんな話よ。」
「あぁ。」
「池君や須藤君は、率先して探しに出てくれた。私には、出来ないことよ。」

自分で話す傍ら、まるでそれが出来ない自分を責めるかのように彼女の背筋が丸くなっていく。
いつも凛とした彼女からは、程遠い姿。
鈴音さんの肩がこれ以上自己嫌悪で落ちないよう、話題を変える。

『ところで鈴音さん、大丈夫？』
「…何が？AクラスやBクラスが、徹底してスポットを押さえるつもりなら、こちらも…」

体調のことを聞かれていると、鈴音さんも察したらしい。
話題をすり替えられてしまった。
相変わらず、素直じゃないんだから。
仕方無いが、それに乗っかる。

『上のクラスを目指すって、大変ね。』
「貴女は、興味が無いの？」
『何に？』
「進学先や就職先の保証…皆その特権を活かすために、入学したと思っていたのに。」
『…』

私は、私達は何も答えない。
だって、それが目当てじゃないから。

暫く歩き続け、やっと開けた場所に出た。
一旦腰を下ろし、休憩を挟む。
このまま歩き回っていては、生徒全員がダウンするだろう。
私も体面では疲れた様を演じていたが、内面ではまだまだいける。
私は先程話し合いの場を乱した詫びも兼ねて、トラブル無く終えられるか幸村君に聞いている平田君の傍へ寄った。

『平田君。』
「旋毛風さん、どうかした？」
『ううん、さっきのことを謝りたくて来ちゃった。』

平田君は幸村君へ向けていた視線をこちらに寄越し、コテンと首を傾げた。
そんな顔も、様になっている。

「さっき？あぁ、軽井沢さんとのことだね。大丈夫、気にしてないよ。急に不慣れな環境に放り込まれたら、誰だって情緒が不安定になるよね。」
『分かってくれてありがとう、けれど改めてごめんなさい。ここからは、場を乱すようなことは決してしないから。』
「旋毛風さんなら大丈夫だよ、信用してる。」

こちらが頭を下げたくなる程に、善良な人間だな…
自己紹介当時にも思ったが、ちょっと怖いくらい良い人である。