蝶は鳥にはなれずとも 3 (ページ3)

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第8話。ページ3

荘厳な音楽と、眩く光るライト。
穏やかに吹き付ける風を身体に受けながら、私達は劇場に足を踏み入れる。
目の前で繰り広げられる演劇を横目に、私と清隆は客席に腰掛けて腕を組む茶柱先生の元へ向かった。

「税金の無駄使いですね。」

言いながら、清隆は1つ空けて先生の右側に座る。
私は座らず、清隆の後ろに立った。

『お呼びですか、先生。』
「数日前、ある男が学校に接触してきた。『綾小路清隆、並びに旋毛風Aを退学にさせろ』とな。」

胸の内に、ザラリとした不快感が広がる。
まるで、キメの荒い砂利を噛まされているようだ。
私は不快感を隠すように、意味も無く微笑んで返す。

『それは意味不明ですね、相手が誰かは知りませんが。』
「理由も無く退学なんて、させられませんよ。」

目の前では、自由という餌に吸い寄せられて傲慢の手に堕ちたイカロスが、空を飛ぼうとしていた。
先生の言葉で、現実に引き戻される。

「無論この学校の生徒である限り、お前達はルールに守られている。だが、問題を起こせば話は別だ。」
『…』
「残念ですけど…俺は傲慢なイカロスと違って、太陽に喧嘩を売ったりしませんよ。」
『私も同じです。今の平穏な日々を、どうして自分から壊すことが出来ましょうか。』

茶柱先生は、私達の返答に眉1つ動かすこと無く言葉を続ける。

「お前達の意思は、関係無い。私が『そうだ』と判断すれば、全てが現実になる。」

その台詞に、神経を逆撫でされる。
へぇ…そういうこと言っちゃうんだ。
知らずしらずのうちに、私の口調には棘が混じり始めた。

『もしかして…私達を脅しているんですか？』
「これは取引だ。お前達がAクラスを目指すと言うのなら、私はお前達を守るために全面的にフォローする。良い話だと思わないか。」
「…話になりませんね。行くぞ、A。」
『うん。』

演劇も終わりに近い、いつまでも残る理由は無いだろう。
清隆の声を合図に、先生の元から離れようとする。

「残念だ…綾小路、そして旋毛風。お前達2人は退学になり、自由を失うだろう。」

つまり先生は我々の意思など蹴散らしてまで、勝手に退学処分にしようとしてるのか。
そしてまた、「あの空間」に引き戻そうとしている。
そう考えが至った瞬間、頭の中の理性の針が振り切れた。
激情である。
清隆も同様だったらしく、私より更に早く動いて先生の襟元を掴んでいた。
私も少し遅れて、先生の束になっている髪の毛の結び目を鷲掴む。