蝶は鳥にはなれずとも 3 (ページ20)

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リクエスト〜振り出しに戻る〜ページ20

髪を整えに来た、美容室の帰り道のことだった。
辮髪頭で高身長の青年が、一度すれ違ってからこちらに足先を向けてきた。

「やぁやぁ、君美容室帰り？可愛いじゃん。」

顔を覗き込むように、男が頭を同じ高さに合わせてきた。
嫌でも視線がかち合い、思わず怪訝且つじっとりとした目で見上げてしまう。

『……何処のどなたでしょう。』
「俺？俺は、1年Aクラスの橋本正義。」
『Aクラス…』

何と、同い年にして最大の敵クラスの一員と早速相見えることになるとは。
如何にもおちゃらけた様子の橋本君、人は見た目によらないとは本当によく言ったものである。
道端でいきなり話しかけてくるという軽薄な行動はさておき、所属クラスがAクラスと言うのはかなり大きい。
無視しても良かったが、多少なりとも話を聞いて内情を伺おうと思い立った。

『…意外ね。』
「そ。見えないでしょ、軽いって印象が強いらしくてさ。」

家までついてこられては、堪らない。
私は追い払うための算段を頭の中で組み立てながら、適当に歩みを進めた。
橋本君は、当たり前のようについてくる。

『そうね。少なくともこうしてナンパしてくるような生徒が、まさかAクラス所属とは夢にも思わなかったわ。』
「どう？意外性のある男子って、女の子には結構人気あるんだけど。」

それならせめて自分で言わないでよ、価値が下がるじゃない。
呆れ返りながら、話を進める。

『統計学的にはそうかも知れないけれど、お生憎様ね。私はギャップがあろうと無かろうと、好きな人が好きなの。貴方みたいに、誰彼構わず声をかける人とはお近づきにはならないから。』

一度黙り、それからさも今思いついたように橋本君に促した。

『けれどそうね…貴方がAクラスの中でもかなりの重役だったなら、もっと興味を持つかも知れないけれど。』
「ツレないなぁ、まぁそんな子も面白くて俺はタイプだけど。ねね、君クラスは何処なの？」

自分の立ち位置は、そう簡単に教えてはくれないのね。
おまけに、かなりねちっこい。
くどくどと、何度でも同じことを聞いて教えを乞いているタイプだろう。
それにしても、私の所属クラスって…分かってて聞いてるのかしら、それとも本当に知らずに声をかけた？
イマイチ本心が読み取れず、侮るなかれと気を引き締める。
御手並み拝見と行こうじゃない。

『なら、貴方が当ててみせて。Aクラスなんでしょ、プロファイリングして頂戴。』
「ふはっ、良いね。挑戦的で、一緒に居て飽きないよ。」