蝶は鳥にはなれずとも 3 (ページ16)

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いつもの、仮面。ページ16

桔梗さんが、空に目を向けた。

「わぁ…！綺麗な星空！」

ね、Aちゃん！と微笑まれ、曖昧に表情を崩す。
こんな風な彼女を見ていると、ついあの日の出来事を忘れてしまいそうになる。
切れ長に細められる釣り上がった瞳と、清隆の手を自身の胸に押し付ける程の度胸。
あれは、悪い夢だったのか。
否だ。
あれも、紛れも無い現実。
寧ろ、あれが彼女の本性だ。
どっちが本当の桔梗さんなのか、今でも分からなくなる。
相当な演技派だし、本心を覆い隠す能力が長けている。
これは元々生まれ持った性格なのだろうか、それとも後天的に作り上げられた代物…？
いつの間にか2人きりになってしまい気まずくなったので、眠くなってきたから寝るねとそそくさと離れようとした。
背を向けた時、ぽすんと背中に桔梗さんのぬくもりがくっつく。

「待って。」

少しだけ低い声、本性が顔を出したか？

『…桔梗さん？』
「警戒してるんでしょ、私分かるんだ…そういうの。」
『…何のこと？』
「愛しの幼馴染君から、聞いてるんじゃないの。私のこと。」
『えぇ、一体何のこと？桔梗さん。』

背を向けていて顔が見えないのを良いことに、私は表情を消して声色だけで笑みを作る。
私があの場に居たことを、桔梗さんは察していたのだろうか。
いや、筒抜けな気配をそのままにする程私も阿呆じゃない。
清隆にも、バレているかもと危険信号を出される筈だ。
だとするなら、カマをかけている？
ここで動揺したら、きっと桔梗さんはまたあれやこれや手を使って私を脅そうとしてくるだろう。
……私に、脅しをかける？
馬鹿馬鹿しくて、思わず鼻で笑いそうになった。
そっちが演技で騙そうと言うのなら、私も同じ土俵に落として遊んであげる。
ホワイトルームの次世代兵器を、あまり舐めないでくれるかしら。
私は桔梗さんに、キョトンとした顔を作って振り向く。

『警戒って…どうして私が、桔梗さんに警戒心を抱くの？』
「…」
『私、桔梗さんのこととっても信頼しているのよ。親愛の感情ならいざ知らず、どうして警戒するって言うの？』
「…」

だんまりを決め込む桔梗さんに、次は何を言おうと考えていると、不意に桔梗さんが背中から離れた。
振り向くと、そこには既にニコニコの桔梗さんが居た。
いつもの、仮面が見えた。

「な〜んちゃって！前に見たドラマのヒロインになりきってみたの！どう？騙された？」
『……そりゃあもう！私凄くびっくりしちゃった！』