蝶は鳥にはなれずとも 3 (ページ13)

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ファン。ページ13

鈴音さんは、初対面の時の私達へ向ける顔と同じそれを龍園君に見せた。
わぁ、今見ると嫌悪感が露骨。

「何処で調べたのか知らないけれど、気安く人の名前を呼ばないでくれるかしら。」
「ハッ、良いなァその顔。そそるぜ。」

ニヤニヤとした物言いに、鈴音さんが眉を潜めて険しい顔をして見せた。

「誰だか知らないけれど、貴方と一緒に居るのが不快でしか無いわ！」
「俺はお前のファンなんだ。」

龍園君が、後ろに静かに佇む生徒に掌を向けた。
示し合わせたように、彼の掌に端末が乗せられる。
そして、龍園君は流れるように鈴音さんを写真に収めた。

「ちょっと！」
「そしてA、」

鈴音さんの抗議など気にも留めず、今度は私のことを呼んだ龍園君。

「お前は俺の獲物だ。誰かに傷をつけられちゃ堪らねぇからなァ、誰にも触らせるなよ。」
『…それ、前にも言ってたね。私のこと、獲物だとか何とか。』
「あぁそうだ。お前にはその自覚が無いらしいからな、何度でも言ってやる。」
『言うのは構わないけれど、私は貴方のような人間に興味は無いし、これからも変わらないから。』
「そう言っていられるのも、今のうちだぜ。」

龍園君は、私の額に人差し指を向けて軽く小突く。
清隆が、全身に力を込めたことが気配で分かった。

「今度は俺が相手をしてやろう、楽しみにしてな。」

あっちゃ〜、やっぱり目をつけられた。
満足気に笑った龍園君が、それだけ言って立ち去ろうとする。
すると後方から、彼を呼ぶ女の子の声が飛んできた。
棘のある温度に、嫌な予感がする。
見ると、ショートカットの強気そうな子が仁王立ちしていた。

「何だ、伊吹か。」
「アンタに話したいことがある。」

伊吹、と呼ばれた少女が詰め寄ると彼は鼻で笑って伊吹さんを抱き寄せる。
もしかしてこの人、近くにいる女全員口説こうとしてる？
そんな阿呆みたいな奴でないことくらいは分かっているが、先程鈴音さんのことを写真で撮ったり私を「獲物」と呼んでほくそ笑んだ龍園君が、今度は目の前の少女の肩に腕を回しているのだ。
環境が違えば、プレイボーイにしか見えない。

「俺が恋しくなったか？」
「っ！ふざけるな！アンタのやり方には、もう我慢出来ない！！」
「そうか、まぁ良い。後は俺の部屋で聞いてやる。2人きりで、な。」

何処までも伊吹さんをからかう龍園君に嫌気が差したのか、とうとう伊吹さんが右拳を突きだす。
へぇ、武道の心得でもあるのかな。