蝶は鳥にはなれずとも 3 (ページ12)

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嫌いじゃない。ページ12

清隆が彼女の右に、私が左に座る。
鈴音さんはこちらをチラリとも見ずに、ただ「早かったわね」と告げた。

『いきなり呼び出しなんて珍しいから、早く来てみたの。どうかした？』
「…この旅行が、ただのバカンスで終わると思う？」

へぇ、やっぱり鈴音さんと仲良くしておいて正解だったな。
ちゃんと、考えることが出来てる。
私は、自分の目が間違っていなかったことを少し誇りに思いながら、潮風に言葉を乗せた。

『…鈴音さんも、同じこと考えてたんだね。やっぱり、何かしらあるんじゃないかな。』
「えぇ。」
「この船の行き先は、学校が所有する南の島のペンションなんだろ。多分、そこで。」
『油断は禁物、ってことだね。』
「…そうね。」
「こんなところに居たのか。」

いきなり乱入した、第三者の声。
聞き覚えのあるバリトンボイスに身の毛がよだち、振り返る。
案の定、龍園君が外国人と思しき男子生徒を携えて現れた。
この人、神出鬼没にも程がある。
龍園君は隣に座り、私の髪の毛を一束掬って手で遊び始めた。

「特別棟にカメラ仕掛けるとか、面白いことやってくれるじゃねぇか。」
『私じゃないわ、鈴音さんの案よ。』
「知ってるぜ、堀北鈴音が関わっていたことくらい。だがその影で、お前に連絡を阻害されたとも聞いた。」

嗚呼やはり、私も関連していたと彼には伝わってしまったらしい。
多分、あの顔面をボコボコにされていた石崎君が伝えたんだろう。
電話の相手、龍園君だったし。
何ら恐ろしくは無いが、絡まれるのはそれはそれとして鬱陶しい。
だがこの様子だと、清隆には何の興味も持っていないようだ。
それならば、別に良い。
彼はまだ、目立つ時じゃないもの。

「最近何かとお前に遭遇するんでな、段々と興味が湧いてきた。Aのような女は、嫌いじゃないんでな。」
『あらそう。お気に召したようで何よりだけれど、生憎私は貴方のような人は好きじゃないの。』
「その表情、中々色っぽいな。」
『人の話を聞いてくれる？？』

頬杖をついてそっぽを向いていたが、顎を掴まれ龍園君の方へ無理矢理向けさせられるので、流石になすがままな訳にもいかず手で振り払う。
距離感のおかしい男ね、やっぱり厄介。
龍園君は、私から鈴音さんにちょっかいをかけ始めた。

「で、隣のお前がカメラ設置の案を企てたんだろう？鈴音。」