蝶は鳥にはなれずとも。 (ページ10)

今日:115 hit、昨日:103 hit、合計:63,916 hit

少し付き合って。ページ10

学食に行こうとする清隆に引っ付いて教室を出ると、桔梗さんが私と清隆を呼び止めた。
人気の無い廊下にまで連れ出されて何事かと思っていると、彼女は鈴音さんの名前を出した。
曰く、学校中の人と友だちになりたくて連絡先を聞いたが、断られてしまったらしい。
鈴音さんが会話をするのは私達くらいしか居ないから、協力してもらいたいとのこと。
眼の前でキュッと可愛らしく清隆の手を握っておねだりする桔梗さんに密やかな殺意を抱きつつ、私は清隆と顔を見合わせていた。

『本当に甘い学校だよね、ここ。』

帰り支度をしながら、清隆に話しかけた。

「そうだな。」
『授業中に生徒が遊んだり居眠りしていても、注意さえしないんだもの。』

日中の私達の授業態度は、それはそれは酷いものだった。
騒がしくは無いのだが、皆揃いも揃って授業とは全く関係の無いことばかりしている。
居眠り、漫画、メッセージアプリ。
私は後ろの席だから、前の人達が何をしているのかざっくりだが見えている。
本当に、酷いものだ。

「同感よ。」

鈴音さんも同調した。

「本当にここは、国が運営する進学校なの？」
「『生徒の自主性に任せる』ってことじゃないか。」
「…そうね。」

……。
え、会話ここで終わり？
拍子抜けして思わずずっこけそうになるのを堪え、私は鈴音さんに話しかけた。

『ねぇ、鈴音さん。もし帰るだけだったなら、この後少し付き合ってほしいのだけれど。』

この言葉にピタリと動きを止めた鈴音さんは、怪しげに私と清隆を見上げる。

「…何が目的？」
『言うに事欠いて目的とは…』

警戒心マックスどころの話ではない。
最早、『親の仇』とかその辺りである。

『私が誘うと、狙いがあるように見えるの？』
「具体的な用件があるなら、聞くくらい構わないけれど。」
『ショッピングモールにカフェあるでしょ、女の子がいっぱい居るあそこ。一緒に行かない？」
「どうして私が？他の友達や、綾小路君が居るじゃない。」
『清隆はこの後、用事があるんだって。他の子でも良いんだけれど、今日は皆無理みたいで。』
「なら、今日じゃなくても良いじゃないの。」
『「思い立ったが吉日」って言うでしょ？』
「『画報は寝て待て』とも言うじゃない。」
『「適材適所」。その時に丁度良いと思った人が居たら、迷わず行動に移したいの。』

私も猛攻撃に疲れたのか、鈴音さんは渋りながらも頷いてくれた。