蝶は鳥にはなれずとも。 (ページ47)

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どっちが本当の。ページ47

「綾小路君、私が聞きたいのは1つだけ。今ここで知ったことを、誰にも話さないと誓えるかどうか。アンタの幼馴染とか言って、いつも八方美人かましてる旋毛風にもよ。」

いやお前も八方美人ブチかましてるだろ。

「…分かった、綾小路君を信じるよ。」

私のツッコミが届く訳も無く、桔梗さんは後ろを向いて1つため息を吐く。
次にこちらを見た彼女は、いつも通りの桔梗さんだった。

「また、秘密が出来ちゃったね！」

それはそれは、明るく楽しそうに。
ねぇ桔梗さん、1つだけ教えて。

どっちが、本当の桔梗さんなの？

清隆達が別れるより少し前に、私は自分の部屋に戻った。
お風呂に入って私服に着替え、ベッドに倒れ込む。
目前で起きた出来事があまりに濃厚過ぎて、まだ処理しきれていない。
自室の天井を見上げ、目を閉じる。
徹底的に作り上げた仮面でもって自分を偽り、秘密を知った者には容赦無い制裁を加える。
情けも何もあったもんじゃない。
瞼の裏に浮かんでくるのは、笑みを浮べて常にクラスを明るくする偽物の彼女ばかり。
私もそれなりの地位をクラス内で確立しているが、桔梗さんの本性を皆に触れ回ったところで結果はたかが知れている。
清隆なら、尚更だ。
桔梗さんも、それを分かっていながらも念には念を入れてあれだけのことをした。
明日から、知らない振りして生きてかなきゃなぁ…
面倒臭いことが増えたなと重い息を吐くと、部屋のインターホンが鳴る。
清隆だった。
開けて招き入れると、清隆は既にお風呂から上がった後だったようで、薄着な上に髪の毛が少し湿っていた。
いくら春先と言えど、こんな時間にそんな格好で外を歩けば風邪を引いてしまう。

『なっ、清隆！いくら何でも風邪引いちゃうよ！』
「心配しなくとも、ちゃんと拭いてきてる。」
『そういうことじゃなくて。』
「…分かってる。」
『じゃあ、何で？』
「…Aと一緒に寝たいと思って、な。」
『…』

さっきとは少し違う、ぼんやりとした返答と表情に思い当たるものがあった。
それ以上は追求せず、相槌だけ打ってベッドに座らせる。

『…まだ歯磨きしてない？』
「あぁ。」
『なら、今ホットミルク淹れる。それ飲んで、一緒に寝よ。明日も学校があるもの、遅寝は出来ないわ。』
「…聞かないのか。」
『何を？』

分かってる、分かってるよ清隆。
貴方が今、「あの頃」をフラッシュバックさせて少しだけ情緒が揺れ動いていることくらい。