蝶は鳥にはなれずとも。 (ページ5)

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何も持たない、自由な白い鳥。ページ5

「櫛田桔梗と言います！」

曰く、ここに居る全員と仲良くなりたいらしい。
大層ご立派なお考えだ、ある訳も無い理想を一瞬想像して嘲笑してしまう。
人間、好きも嫌いも様々なのにね。
男子生徒からの歓声が大きい、すっかりアイドルだ。
清隆はこういう人どうなんだろうと思って振り向くと、何やら顎の下で手を組んで思案中だ。
いつもなら集中してもらうためにも話しかけないのだけれど、多分私の予想が正しければ、清隆は今とてつもなくどうでも良いことを考えている筈。

『清隆、どうかした？』
「いや。」

呼びかけると、清隆は目を開けて私を見た。

「この自己紹介で、クラス内の立ち位置が決まると思ってな。ウケを狙うべきか、超ハイテンションでひと笑いくらい取れるかも知れないと考えていた。」

やっぱり超どうでも良かった。

『ていうか…清隆のハイテンションとか、私かえって見たくないかも。』
「何でだ？俺の新しい一面を見られるかも知れないだろ。」
『誰かのウケのために見られたのが好きな人の新しい一面とか、複雑極まりないわ。』
「そういうものか。」
『そういうもの。それに大丈夫だよ、たとえ清隆が失敗しても私がフォローするし。』
「まぁ、コミュケーション能力においてはAの方が上だしな。」
『それ以外は、私と比べ物にならない程完璧な癖に。』
「…刺々しいな。」
『あはっ、愛情の裏返しよ。気にしないで。』

遠くからイケメンが嫌いだとか何とか色々聞こえてくるけれど、正直片耳で聞いてるだけで十分な情報量なので会話は続けていく。

『確かに、私達趣味とか特技とか無いもんね。自己紹介しようにも、自己を紹介するだけの情報が無いっていうか。』
「あぁ。俺達は何も持たない、自由な白い鳥…」
『何言ってるの、清隆…』

珍しくテンパっているらしい。
普段は出ないボケに全力でツッコんでいると、平田君が私を指さした。
けれど、ここは敢えて清隆を先にすべきだろう。
そう思って清隆に立つよう促すと、案の定所々でどもりながらも何とか終えていた。
吹き出しそうになったのを堪えた私は、とても偉い！！
パラパラと上がる中でも一番大きく沢山拍手をした私の側で、清隆は「失敗した〜…」とでも言いたげな表情で椅子に腰を下ろした。
けれど、仕方無いよね。
清隆のことを庇うわけじゃないけれど、私達は本当に「何も持たない白い鳥」だから。

「じゃあ次は、綾小路君の前の君！」