蝶は鳥にはなれずとも。 (ページ40)

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退学取消。ページ40

「ルールは、平等に適用されているように見えなければならない…ということですよ。」

清隆の無機質な声が、風に乗って飛んでいく。
平等なんて形骸化した言葉、早く廃れてしまえば良いのに。
私から言わせれば、そんな無意味で馬鹿馬鹿しく思える言葉こそ不要に思えてならない。
何が平等だ、何が平和だ。
そんなものがあったなら、この世界からは醜い争いも戦争もとっくのとうに殲滅されていると言うのに。

「ほう…？」

先生が、興味ありげにこちらを振り向いた。
やっと、こっちを見ましたね先生。
もう、目は逸らさせない。
私達は、自身の端末を差し出す。
これが、目的だ。

『須藤君の英語の点数、1点売ってください。』

先生が、口元を歪める。
直後、声を上げて笑った。
わ、初めて見たよ先生の笑顔。
高らかに笑う先生が、初めて「先生」の表情をしたように思えた。

「面白いなぁ、お前は。まさか、点数を売ってくれと言い出すとはな。」
「先生は、入学式の日に言いましたよ。『この学校では、あらゆるものをポイントで買うことが出来る』と。ルールは、平等に適用されなければならない。この中間テストにも。」
「なるほど。確かに、そういう考え方も出来なくも無い。だが、お前達の手持ちで買える金額とは限らないぞ？」
『…幾らなんですか？』

先生は考えながら、今ここで20万ポイント支払うなら売ってやっても良いと放った。

『…先生の意地悪。』
「これもルールだ。」

ルールなら、何でもありってか？
腹立たしいことこの上無い。
その金額は、いくら私達がポイントを制限して使っていても足りない。
清隆が6万ちょっと、私が7万弱。
どうやっても、足りない。
また交渉しなければならないか、と思考を巡らせた直後。

「私も出します！」

凛とした、鈴の音のような声。
信じられない思いで振り向けば、そこにはやはり鈴音さんの姿があった。
一体いつの間に。
鈴音さんは、私達と同じように端末を片手にしながらこちらをまっすぐに見つめる。

「退学者が出たクラスに、どんなペナルティが課せられるか分かりません。彼を残すメリットの方が、大きいと判断しました。」
『鈴音さん…』
「ふっ、やっぱりお前達は面白いな。良いだろう、須藤の1点を売ってやる。退学取消の件、お前達から伝えておけ。」

清隆が良いんですねと釘を刺すと、先生はまた煙草をふかしながら「約束したから仕方が無い」と言う。
私達から目を逸らし、空を見上げた先生が続ける。