蝶は鳥にはなれずとも。 (ページ39)

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今の日本は。ページ39

咄嗟に頭を守ろうと手を動かした瞬間、ふわりと私の腰に腕が回る。
強い力で引き上げられ、清隆が私を抱きしめた。
助けるためとは言え、何とも照れる助け方である。
体勢的に清隆の首に腕を回さないといけなかったので、大人しく両腕を絡める。

『ありがとう…清隆。』
「Aは少し落ち着いてくれ、俺がお前を置いていくわけ無いだろ。と言うか、振り返った時に見えたAが今にも転びそうで驚いた俺の気持ちも考えてくれ。」
『えへ、ごめん。けど、清隆の背中があんまりにも遠くに見えたものだから…つい。』
「ついって何だ…物理的距離だけだから、安心しろ。」

背中に回る腕に、力が込められる。

「…俺達は今更、互いから離れることなんて出来ない。」
『…』
「お前が俺のことを思っているのと同様に、俺もお前から離れることなんてあり得ない。」
『……うん、だよね。うん。』

胸いっぱいに、清隆の香りを吸い込む。
安堵のあまり、ため息が溢れた。
物心ついた時から、ずっと隣に居た清隆。
あの場所に閉じ込められた私達にとって、互いの存在だけが唯一の心の拠り所だった。
そうよね、私達は今更「普通」になんてなれない。
だからこそ、「普通じゃない」私達にしか出来ない方法でクラスを上にあげるのだ。
合法だろうが非合法だろうが、関係無い。

『……ありがとう。行こう、授業の時間になっちゃう。』
「あぁ。」

先生が向かった先は、屋上だ。

先生は、煙草を吸っていた。
仮にも未成年の前で、そんな堂々と吸って良いものか…？
煙草なんて百害あって一利無しと知っている私は、こちらに時折流れてくる煙に顔を顰める。
気配で分かったのだろう、後方を見ずとも先生は私達の存在を言い当てた。

「どうした、もうすぐ授業が始まるぞ。」
「先生、1つ質問させてもらっても良いでしょうか。」
「質問…？」

屋上ならではの強風が吹く。
風にたなびく髪の毛を押さえつけながら、私達は声を揃えて先生に問うた。

「『今の日本は、この社会は平等だと思いますか？』」

先生は、微かに笑って答えた。

「随分と、ぶっ飛んだ話だな。私がそれに答えて、意味があるのか？」
「大事なことです、答えてもらえませんか。」
「…私なりの見解で言えば、当然世の中は平等じゃない…少しもな。」
『…私もそう思います。平等なんて言葉は、偽りだって。でも、私達人間は考えることの出来る生物です。』
「何が言いたい？」