蝶は鳥にはなれずとも。 (ページ36)

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一言一句。ページ36

「でも、大丈夫なのかなぁ。」

噴水広場にて、すっかり元通りの格好に戻った私と清隆と桔梗さんは、ベンチで休憩していた。
桔梗さんはどうやら、私が想像していた通りの懸念をしているらしい。
清隆も分かっているのか、何をというわけでもなく返答。

「問題無いさ、学校のルールの範囲内だ。」
「そうかも知れないけど、過去問を使うなんて」
『「ちょっとずるい」って？大丈夫よ、桔梗さん。』
「え？」

ぽかんと口を開ける桔梗さんに、丁寧に説明する。

『さっきの先輩の反応を見て、確信した。過去問を生徒間で取引するのは、珍しいことじゃないんだよ。』
「けど、過去問は過去問でしょ？今年のテストとは、無関係ってこともあるし。」
「同じ問題は出ないかも知れないけど、全く違う問題になるとも思えない。」

清隆が桔梗さんに、これはあくまで赤点組のための保険だと伝えていると、端末が通知音を発した。
過去問が届いたようだ。
先輩、ポイント分の仕事はしっかりしてくれるらしい。
助かる。
私は、清隆が取り出すよりも前に素早く世界史の小テストを差し出す。
少しだけ驚いたような顔をした後、清隆は口パクで「流石だ」と褒めてくれた。
それだけで、私は充分に嬉しい。

「…同じだ。」
『本当だね、一言一句違わない。』

画面を覗き込み、内容を確認する。
どれもこれも、全く一緒だった。
桔梗さんが、高い声で反応する。

「凄い！じゃあ、中間テストも？」
「恐らく、同じ内容だろうな。」
「須藤君達だけじゃなくて、皆にも見せてあげようよ！」

流石は、クラスの人気者の櫛田桔梗さんだ。
考えることが、尽く善人である。
けれど、それは駄目。

『テスト前日にネタバラシしよう、桔梗さん。そうしたら、皆はどうすると思う？』
「……あっ、必死で過去問を暗記する！」
『そう言うこと。』
「綾小路君とAちゃんって、何気に切れ者？」
『まさか、違うよ。』
「悪知恵が働くだけだ。」

ふと、清隆が私達を交互に見た。

「なぁ、1つお願いがあるんだが。」
「うん？」
『なぁに、清隆。』
「この過去問を、Aと櫛田が入手したことにしてくれないか？」
「良いけど、綾小路君はそれで良いの？」
「俺は、不用意に目立つことはしたくないんだ。それに、2人はクラスメイトにも信用されているからな。」

………あぁ、そう言うことね。

『分かった。清隆がそう言うなら、そうするね。』
「助かるよ。」
「じゃあこのことは、私達だけの秘密だね！」