蝶は鳥にはなれずとも。 (ページ35)

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先輩ともっと。ページ35

『ごめんなさい、あまり話したこと無い人の名前は覚えられなくて。』
「…それは済まなかったな、会話したことも無い奴で。」

わざとらしく目を丸めて驚いた表情を作ると、清隆が普段は絶対に私に見せないような疑り深い視線を向けた。
おぉ、流石は清隆。
演技とは思えない、分かりやすく嫌そうな顔だ。
現実の彼にされたら、間違い無く心が折れるだろう。
清隆が、先輩に向き直る。

「先輩も多分、Dですよね。」
「あ、あぁ。」
「タダだけど美味しくないですよね、それ。」

先輩は、唐突に入り込んできた清隆達に不審感を抱いているらしかった。
けれど、眉根を潜めながらも話は聞いてくれている。

「先輩に相談があるんです。勿論、お礼もするつもりです。」

清隆が、ずばり本題を切り出す。
一昨年の一学期中間テストの問題を、譲ってほしい…と。
私達の狙いは、これだ。
勉強会にすら参加しようとしない駄目な生徒達をどうしても引っ張り上げるためには、こうした裏の手を使う。
正攻法で出来ないのなら、別からのルートを利用する。
こうして、私達は生き抜いてきた。
ずるいとか何とか言われることもあるけれど、私達からしてみれば「最後に生き残ってさえいれば、こちらの勝ち」なのだから、それらは寧ろ褒め言葉とすら言える。
先輩は、幾ら出せるか聞いてきた。
こちらが提示する上限は1万ポイント、でも先輩は3万ポイント以下は駄目だと聞いてくれない。
勿論、これは想定内だ。
そのために、私と桔梗さんが居る。

「待ってください！友達が、退学させられるかも知れないんです！！お願いします…！！」

流石、桔梗さん。
自分の顔の使い所を、よく分かっているじゃない。
私も、桔梗さんに続いて目を潤ませた。

『先輩、私からもお願いします！』
「えっ、君まで…？」
『次のテストで良い点数を取らないと、来月いよいよ生活出来なくなっちゃうんです…私絶対にそんなの嫌！それに…』

勢いに任せて、強く握られている手を覆う。

『ポイントがあれば、先輩ともっと沢山お話出来るの……駄目…ですか…？』

駄目押しに、コテンと小首を傾げる。
先輩の心がぐらつき始めたタイミングで、清隆が値切り交渉をスタートさせる。
じわりじわりとポイントを下げ、それに伴って私も手を覆う力を強くする。
もっと、もっとよ。
私達を助けると思って、出来る限り値切らせて。
結局先輩は、15000ポイントで妥協。
桔梗さんの満面の笑みに添えるように、私もそっと微笑んだ。