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価値を。 ページ33

帆波さんが、いつの間にかこちらを怯えたように見ていたテニス部の生徒達に安心するよう呼びかける。
流石、気遣いも欠かさない。

「皆の迷惑になるようなことはしないようにね、以上!」
『色々とありがとう、帆波さん。』

いなくなる帆波さんに手を振り、須藤君に向き直る。
本題は、ここからだ。

「須藤、この後時間あるか?櫛田が教室で勉強会を」
「わり、部活あるから。」
「池や山内も、やる気になってる。」

須藤君に投げかける清隆に倣うように、私もそっと言葉をかけた。

『…ねぇ、1人で大丈夫?』

一瞬黙ったが、今更足掻いたってもうどうにもならないと彼は言う。
そんなことは無いと、何も知らない須藤君に教えたい。
人は確かに、万能な神じゃない。
出来ることと、出来ないことはある。
一見完璧に思える清隆にだって、弱点はある。
…まぁ、それを補うための私でもあるのだけれど。
出来ないことも多くあるが、一方で人間は「不可能を可能にする」ことが出来る。
人類はかつて、空を夢見た。
鳥類しか知ることの出来ない果てしない空のその先を、人々は願い続けた。
やがてその荒唐無稽な願いは夢となり、夢はいつしか叶えられるかもしれない目標となり、現実となった。
人類初で空を飛んでみせた、かの有名な兄弟が遺した名言を遠ざかる背中に向けて叫ぶ。

『今正しい事も、数年後間違っていることもある。逆に今間違っていることも、数年後正しいこともある。』
「っ?」
『この言葉をどう捉えるかは、貴方に任せる。けれど、目先の感情論だけで物事を判断することだけは、貴方のためにならないってことは伝えておくね!』

この言葉が、彼にどう響くか。
いや、そもそも響かない可能性の方が高い。
けれど、少しでも頭の片隅に残ってくれたなら。
価値を、見出してくれたなら。

「…帰るぞ、A。俺達にも、やることがある。」
『…うん、そうだね。』


















その翌日。
私は単独で、食堂へ来ていた。
清隆と前日に打ち合わせし、狙いを定めていた1人の男の先輩の元へ近付く。
手には、先輩が食べようとしているものと同じ山菜定食。
いつもと違う髪型、制服、仕草、表情。
何もかも、普段見せているものと変えて男の傍へ向かう。
万が一にも、クラスメイト達に見られないように。
もし見られても、違うと押し切れるように。

『…よし。』

気合を入れ直して、一度ギュッと目を強く瞑る。
次に開けた時には、もう心意気は別人のつもりで。

SIDE 綾小路→←気に入った。



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れい(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです!!更新頑張ってください (2月18日 12時) (レス) @page24 id: 774cbd6690 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2024年2月6日 18時

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