その考え方こそ。 ページ29
煌々と明るい自動販売機の飲み物をそれぞれ買い、私達は一旦傍のベンチに落ち着いていた。
私は清隆に腰をがっつり掴まれて身動きが取れないで立ったまま、鈴音さんは座っている。
私は、清隆に買ってもらったアイスコーヒーを口に含んだ。
鼻腔を通じて、苦味を全身に巡らせる。
こうでもしないと、先程の恐怖が蘇ってきて震えそうになるのだ。
鈴音さんが、ポツリと零した。
「…変なところを見られちゃったわね。」
「寧ろ、堀北も普通の女の子なんだって分かって良かっ」
私の肘鉄と、鈴音さんの睨みが効いたらしい。
何でもありません、と清隆は大人しくなった。
「貴方達、凄いのね。」
気を取り直したように、鈴音さんが私を見る。
誤魔化すように微笑んで首を傾げても、彼女は誤魔化されなかった。
しょうがない。
『バイオリンと華道を習っていただけよ。』
「…さっきは、『そろばん』って。」
やべ。
『そろばんもやってたの。』
「…入試の点数をわざと揃えたって、本当?」
『言ったでしょう?偶然よ。ね、清隆。』
「あぁ。」
「貴方達のこと、よく分からない…」
これ以上こちらを深堀りされたくないので、話を逸らす。
『ねぇ鈴音さん、本当にもう勉強会は良いの?』
「えぇ。赤点保持者に時間を割くだけ、無駄だと判断したわ。何のメリットも無い。」
「須藤達は、退学になるぞ。」
「他がどうなろうと、関係無いわ。寧ろ残るのは、必然的に彼等よりマシな生徒でしょ。上のクラスを目指すことも、容易くなる。私には、願ったり叶ったり。」
なるほど、堀北兄が鈴音さんを講評していたあの言葉、こういうことだったんだ。
確かに彼女は、「孤高」と「孤独」を履き違えている。
「…その考え方は、間違ってるんじゃないか。」
「え…?」
『そうね。鈴音さんの欠点は、他人を足手纏いと決めつけて最初から突き放してること。相手を見下すその考え方こそ、貴女がDクラスに落とされた理由なんじゃないかな。』
「っ、私は…」
続く言葉は無い。
これで、少しは考え方を改めてくれると良いのだけれど。
そうじゃないと、後々利用しにくいでしょう?
部屋に戻ろうとすると、清隆が小声で私を呼び止めた。
俺の部屋に泊まれ、と言いたいらしい。
私自身やることも特に無いので、素直に頷く。
部屋に入り、鍵を閉める。
ガクンと膝から崩れ落ちた。
『っはぁっ…!』
足に籠めていた力を抜き、玄関先であるにも関わらず地に座り込む。
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れい(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです!!更新頑張ってください (2月18日 12時) (レス) @page24 id: 774cbd6690 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桜 | 作成日時:2024年2月6日 18時