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バイオリンと。 ページ28

そんなことしたくて、わざわざ飛び出してきた訳じゃないのだけれど。
会長の右手が、私の首元を狙うかのように迫ってくる。
どうするか。
掴んで逸らす?
いや、それだとかえって距離を詰められてしまう。
この体格差で距離を縮められたら、いくら何でもかなりのダメージを受けてしまう。
なら、合気道よろしく受け流す?
駄目だ、首筋を狙うこの手に注力し過ぎて彼の左手が迫って来ることに気付かなければ、どの道私は怪我を負う。
嫌だよ、駒より先に怪我して途中退場とか洒落にならない。
私は、清隆のためにここに居るのに。
選択に迷い、動きが止まる。
男の右手は、もう目の前だ。

『っ!!』

冷や汗が滲み出た瞬間、安心する香りが鼻を掠めた。
瞳孔が開いて固まっていた私の瞼を右手でそっと閉ざし、代わりに会長の手を躱してくれたのは。

「大丈夫か、A。」

清隆だった。
安堵で膝から崩れ落ちそうになるのを、必死で堪える。
ここでは、あまり弱点を見られたくない。
心なしか焦ったような表情で私の肩を支えた清隆は、飛び退いた会長の方を見やる。
私も何とか体勢を持ち直し、会長を睨みつけた。
会長は突如として現れた清隆に大して驚きもせず、寧ろ関心したように私達を交互に見た。
視線が絡むが、既に私の中では嫌悪感で一杯である。
妹の話も禄に聞こうとせず、その上初対面の私にまで暴力を振ろうとするなんて、何て強引なんだ。

「良い動きだな、何か習っていたのか?」
「ピアノと書道なら。」
「ほう…お前は?」
『…バイオリンとそろばんなら。』

勿論でっち上げである。

「あぁ…そう言えば、今年の入学試験で全科目で50点を取ったという新入生が2人居たな。加えて、先日の小テストの点数も50。100点満点中の、50。お前達、狙って揃えたな?」
「偶然って怖いっすね〜。」
『考え過ぎですよ、生徒会長。』

のらりくらりと交わした私達に興味を持ったのか、会長はユニークな生徒だと笑みを浮かべた。

「鈴音、お前に友達が居たとは正直驚いた。」
「彼等は…友達なんかじゃありません、ただのクラスメイトです。」
「…相変わらず、『孤高』と『孤独』の意味を履き違えているようだな、鈴音。上のクラスに上がりたければ、死にもの狂いで足掻け。」

妹の勘違いを的確に当てた兄は、冷徹な瞳をこちらに向けてからその場を後にした。

その考え方こそ。→←兄さん。



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れい(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです!!更新頑張ってください (2月18日 12時) (レス) @page24 id: 774cbd6690 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2024年2月6日 18時

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