蝶は鳥にはなれずとも。 (ページ11)

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そこは『どういう意味？』が正解。ページ11

夕日が差し込む放課後。
カフェに足を踏み入れると、想定以上に人でごった返していた。

「凄い人数ね。」
『鈴音さんも来たこと無かったの？』
「嫌味のつもりだとしたら、幼稚ね。」
『そんなこと微塵も考えてないから安心して…』

空席が1つ出来たのをすぐに見つけ、そこへ腰掛けた。
席に座ったは良いが、特段会話があるわけでもないので沈黙が降り積もる。
目の前の鈴音さんは、無理矢理説得して来てもらったからか不機嫌そうだ。
あぁ…この後に起こることを考えると、胃が痛い。
軽々しく引き受けるんじゃなかった。
けれど仕方無い、あの場で断ろうとしてもどうせあの子は何度も食い下がってくる。
そちらの対応の方が、今後に響く。
下手したら、櫛田さんのお願いを断るなんて何様だって学年中から浮いて目立つことになる。
それは…是非とも避けたい事象だ。
心なしか痛む胃を擦りつつ頼んだカフェラテをちびちびと飲んでいると、私達の傍に寄ってくる人影が1つ。

「あっ、堀北さん！偶然だね〜、旋毛風さんも。」

桔梗さんだ。
桔梗さんは私のことも見て微笑むと、自然な流れで隣の席に腰掛けた。

「2人は、ここよく来るの？」
『今日は、偶々ね。』

視界の端で、鈴音さんが分かりやすく眉根を寄せた。
もうそろそろ限界だろうか。

「そうなんだ。私は1人で…」
「帰るわ。」

桔梗さんの言葉の途中で、遮るように鈴音さんが音を立てて立ち上がった。
一応私も、ポーズだけだが引き止めてみる。

『えっ、まだ来たばかりなのに。』
「櫛田さんが居るなら、私は必要無いでしょう？」
『けれど、鈴音さんも一緒に話そうよ。』

そうは言っても我々の間に共通の会話などある筈も無く、たとえここに残ってくれたとしても寧ろ胃の痛みが増すだけかも知れないが。
立った鈴音さんの冷たい瞳が、上から桔梗さんを突き刺す。
何だか周囲の喧騒のボリュームも、少しだけ下がっているような気がする。

「…気に入らないわね、何がしたいの？」
「や、やだなぁ。偶然だよ。」

桔梗さん、そこは『どういう意味？』が正解だよ。
思わず心中でツッコむ。
鈴音さんは滔々と、桔梗さんが仕組んだであろう生徒達のことを話す。
流石の観察眼だ、これはこれからも継続して利用するだけの価値がある。
帰ったら、清隆にも伝えなくちゃ。
仕方無く少々根回ししたことを白状すると、思ったより激情することなく、冷静な返答が来た。