透明な水のように。 ページ21
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初めてだった。
両思い、というやつを経験したのは。
"好きな人!いるんでしょ?誰?"
"え、ちょ、え?"
"ほら!早く!"
"……隣の、席の、菅原。"
懐かしい、中学の頃の記憶。
あの頃の私はまだ綺麗で、今みたいに心の中まで汚くなかった。
だから、かな。
親友を疑いもせず、恋愛相談をしたのだ。
私が好きになったのは、笑顔が柔らかな人だった。
泣きぼくろが特徴的で、灰色がかったふんわりとした髪が靡く度、心躍らせたのを覚えている。
白い歯を見せて、子供みたいに無邪気に笑う菅原に、中3の初夏、恋をして。
そして。
晩夏、砕けた恋の欠片に、涙を零した。
親友の言うままに恋を進めて、告っちゃえ、なんて軽く言われ、勇気を振り絞り人生初の告白をした。
なんて返ってきたと思う?
"ごめん、俺、好きな子がいるんだ。"
"……そっか。"
後から知った。好きな子なんて、菅原にはいなかったらしい。優しい君のことだから、私が最も諦めやすく、傷つかないように返事をしたんだろうね。
親友の根回し。とでも言おうか。私がフラれるように、悪い噂をとことん菅原に話していたらしい。
その後からだ。
"ねえ、Aって菅原くんに告ったらしいよ。"
"え、マジで?"
"あの見た目でよく告ろうとか思ったよね。"
親友が、悪魔に見えた。
親友が、私が菅原にフラれたことを、言いふらしていたから。
笑いながら、私の見た目やら性格やらを貶すもんだから。
幸い、菅原へと伝わった悪い噂の誤解は解けたため、そこは良かったんだけど。私の中で、人に合わせる、空気を読む、という生きる術が発達した。
それは極度に私を侵食し、私は、人付き合いの中で愛想笑いと空気を読むことに依存した。
合わせてれば大丈夫。
なんてくだらない感情に酷く、安心していた。
故に。
こうして、今、花巻にOKを貰ったことが、嬉しくて仕方がなかった。
好きな人が居ても告ろうともしなかった。
トラウマのように根付いたあの記憶が掘り起こされて、ズキリと痛んだ。
だからこそ、岩泉に感謝していた。
……でも、私の中で育った人間不信の感情は、酷く歪んでいるらしい。
自分の容姿への劣等感が、人間不信を更に強くした。
ねえ、岩泉。
岩泉が、任せろって言ってから、少ししか経ってない。私はほとんど一目惚れみたいなものだったけど、花巻はどうして私を好きになったの?
……ねえ。
私に好きと言ったのは、真実ですか?
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あいうえお - すみません他の作品のパスワード教えてほしいですー! (2023年2月18日 22時) (レス) id: 8655edc292 (このIDを非表示/違反報告)
如月(プロフ) - たまたま見つけたこの小説でしたが、読んでよかったなあと思いました。私も夢主ちゃんと同じ感じで何もないのに死にたいとかめっちゃ思います。だからこそ共感できるし、なんか同じ気持ちの子がいるんだなって嬉しくなりました。好きです! (2021年6月19日 6時) (レス) id: 85ad8c6978 (このIDを非表示/違反報告)
お水。(プロフ) - まーちさん» いえ!こちらこそ読んでいただき本当にありがとうございます!感動したと言っていただけて本当に嬉しいです。コメントまで残して頂き、励みになります!本当にありがとうございました! (2020年12月29日 18時) (レス) id: 5c541d7487 (このIDを非表示/違反報告)
お水。(プロフ) - まふにゃさん» 歌詞だったんですね!気付きませんでした!今度検索してみますね!コメントありがとうございます! (2020年12月29日 18時) (レス) id: 5c541d7487 (このIDを非表示/違反報告)
まーち - こちらの作品とても感動しました。少し、少しだけ感情が薄い私がなきそうになりました。こんな素敵な作品を作っていただきありがとうございます。 (2020年12月10日 21時) (レス) id: 65334a4eed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お水。 | 作成日時:2019年1月12日 17時