笑顔。 ページ13
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「うお……ビクッた……」
扉の前にいた男子は、大袈裟に肩を揺らして、タオルを落とした。
誰だ。三年なのは間違いないし、すれ違った事もあるんだろうけど。
名前が、分からない。
「……人の顔みてそんなに驚く?普通。はい、タオル」
「あー、いや、なんか、ごめん。サンキュ」
沈黙。首に手を置いて、気まずそうに目を泳がせている男子を見て、一つ、ため息。
「で、あんた誰?」
「……一応初対面だぞ」
「口悪いのは勘弁して。で、あんたは?」
「俺はお前のこと知ってんだけどな。湯川Aだろ、お前」
ピクリと眉を動かす。どうしてコイツは私を知っているのか。
私はそこまで有名ではないんだけども。
「なんで知ってるの?」
「だってお前、結構目立つ立ち位置にいるだろ?イケイケ女子っつーの?そういう所らへん」
「いや、そこまで上じゃない」
で、結局こいつは誰なんだ。
え、どうしよう、ここまで来て只教室に忘れ物取りに来ました的な感じだったら。
「……で、あんたは?」
「嗚呼、そうだったな。
俺は、花巻貴大。バレー部の3年3組だよ」
バレー部。3年3組。花巻貴大。
……ダメだ。完全に知らない。こんな事ってあるんだろうか。
三年にもなって、名前すら聞いた事無いなんて。
そんなこと、あるはずないのに。
「あー、ごめん。知らない」
「だろうな。同じクラスになったこと無いし、委員会も被ったことないし。
はは、こんなに接点ないの、珍しいな」
何倍もあるんじゃないかというくらいには身長がある花巻を見上げ、気まずくなりつつ知らない、と言えば。
口角を上げ、先程まではダルそうに瞼を下ろしかけていたのを戻して。
クシャ、という効果音がつきそうな程に満面の笑みで笑う花巻は。
酷く綺麗で。
私の中に溢れ出る甘い甘い液体は。
言葉にならずに。
溜め息となって。
「……そうかもね。んじゃ、私帰るから。練習ガンバ。あとタオル汗臭いから気をつけなよー」
手を軽く振って、花巻の横をすり抜ける。
汗臭い、という単語に反応したのか、は!?と変な声を出す花巻を置いて。
重い鞄を揺らして。
廊下を駆け抜ける。
下駄箱に着く頃には疲れ果てて。
そして。
「……あーあ」
顔を覆って、ため息を吐く。
空っぽだった私の中に、欲が次々と生まれて。
タオルが汗臭くなるまで部活がしたい。
道着を着たい。
竹刀を握りたい。
そして。
あの笑顔を、もっと。
そう簡単に叶う恋なら、した意味がないじゃないか。→←虚しさ。
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あいうえお - すみません他の作品のパスワード教えてほしいですー! (2023年2月18日 22時) (レス) id: 8655edc292 (このIDを非表示/違反報告)
如月(プロフ) - たまたま見つけたこの小説でしたが、読んでよかったなあと思いました。私も夢主ちゃんと同じ感じで何もないのに死にたいとかめっちゃ思います。だからこそ共感できるし、なんか同じ気持ちの子がいるんだなって嬉しくなりました。好きです! (2021年6月19日 6時) (レス) id: 85ad8c6978 (このIDを非表示/違反報告)
お水。(プロフ) - まーちさん» いえ!こちらこそ読んでいただき本当にありがとうございます!感動したと言っていただけて本当に嬉しいです。コメントまで残して頂き、励みになります!本当にありがとうございました! (2020年12月29日 18時) (レス) id: 5c541d7487 (このIDを非表示/違反報告)
お水。(プロフ) - まふにゃさん» 歌詞だったんですね!気付きませんでした!今度検索してみますね!コメントありがとうございます! (2020年12月29日 18時) (レス) id: 5c541d7487 (このIDを非表示/違反報告)
まーち - こちらの作品とても感動しました。少し、少しだけ感情が薄い私がなきそうになりました。こんな素敵な作品を作っていただきありがとうございます。 (2020年12月10日 21時) (レス) id: 65334a4eed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お水。 | 作成日時:2019年1月12日 17時