５話 ページ7
「確かに、有くんを傷つけた彼は許せないよ」
思い出すだけでも腹が立つ。
その憎悪に満ちたボールで有くんを傷つけたことに。苦痛に歪む有くんの顔は見るだけで、心が痛くなる。
「でも、彼は…有くんのチームメイトだから。それに、君に踊らされているのもまた事実でしょう？」
自分の手は汚さず、高みの見物。
まるで、今の私のようで余計に腹が立つ。
「踊らされている？関係ない奴が知ったような口を！俺たちは、自分たちの意思でここにいる！！帝国は負けた。その屈辱がお前に分かるか！！」
「はぁ？甘ったれたこと言わないで。その屈辱すらも乗り越えられなかった君が有くんを責めることなんてできない」
「なんだと？俺たちはその屈辱を胸に強さを手に入れた！！」
「その強さは君の力じゃない。屈辱を味わうのが嫌だから、逃げてるだけ。そんなこともわからないの？」
有くんのチームメイトじゃん。
どうして、君たちの…帝国のサッカーをそんな簡単に捨てられるの。
ギュッと握った拳。子供をあやすように優しく問いただしても、彼の心には全く響いた様子はない。
「A、もういい。だから、泣くな」
手を握られて、一気に力が抜けていく感覚の中で、拳を緩める。
頬を伝う涙にようやく気付いて、手で拭うが、あふれ出る涙を止める術はない。
「ごめ、さい。有くんの優しさを、証明でき……」
「いいんだ。俺が、世宇子に勝つために雷門に行ったのは事実。それは覆らない」
「そうだ。お前は俺たちを見捨てたそれは事実だ」
「だぁああ！！鬼道はそんな奴じゃない！！それを今から証明してやる。お前たちの間違いを気付かせるためにも俺たちのサッカーで勝つ！！」
佐久間くん達をビシッと指さす円藤くん。
そして、円藤くんの宣戦布告がフィールドに響いた。
◇
「と、いうわけでだ。こいつは、A。みんな、仲良くしてやってくれ！」
「「おー！」」
ようやく、キャラバンに参加できることになったのはいいのだが、この感じ、やっぱり慣れないな。
既に、メンバーは知っていたので名前を覚える必要がなく、彼らの自己紹介を聞き流しながらも握手をする。
「また会えたねAちゃん」
最後に握手するために出てきたのは吹雪くんで、あの時と同じように笑顔で私を見つめてくる。
「久しぶりだね、吹雪くん」
手を差し出しながらも、その笑顔にできる限り応えた。
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作者名：ハル x他1人 | 作成日時：2019年5月7日 22時
