３話 ページ5
『珍しいね、君があんなメールをよこすなんて』
携帯から聞こえるヒロトの声に沈黙で返す。
『なにか裏があるんじゃないかって疑ってしまいそうになる』
沈黙。否、彼の言葉を無視して、今まさに始まろうとしている試合に目を向ける。
あの雷門イレブンに吹雪君が加わって、攻撃力も守備力も上がった彼らに果たしてジェミニストームは勝てるのだろうか。
「ねぇ、もしこの試合、エイリア学園が負けたら…私の勝手な行動を見逃してほしい。父さんを裏切るわけではないから。お願いヒロト」
『そんなこと起こるはずがない。ただの人間に』
「ヒロト」
『……ああ、いいだろう。その代わり、レーゼたちが勝ったら僕の言うことを一つ聞いてもらう。いいね？』
「分かった」
ピッと通話が切れて、それと同時に試合開始のホイッスルが響いた。
◇
結論から言えば、勝者は雷門イレブンだ。
つまり、それは賭けの勝利は私だということでもあった。
「……よかったね。有くん」
勝ったことで盛り上がりを見せる彼らに、僅かに口角が上がった。
最後まで見守りたいけど、そんな時間は私にはない。
黒色のサッカーボールを手に取り、目を開ければそこはもう、エイリア学園の本拠地。寒かった風は消えうせ、真っ白だった視界は暗く。
「…早かったね」
私の帰りを見越していたのだろうヒロトの声がすぐに耳に届く。
「ここまで、君は読めていたのかな？」
「ううん。ただ、私は好きな人を信じただけ」
「ふうん。いずれにしても、賭けは君の勝ちだ。行くんだろ、彼のもとに」
「うん。ごめんねヒロト」
「それでいいのかな？彼を最悪な形で裏切ることになる」
「……それでも、そばにいたいから。それに、彼らは私たちの障害になる。内情を知ってて悪いことはない」
自分でも、反吐が出るほどの建前ばかり。
結局、自分勝手な願いなのに。さぞ、お綺麗な感情で動いているように見せかけている。
そんな自分が、酷く嫌いだ。
「分かった。君に任せるよ」
それだけを言い残して去っていくヒロトの背中を見ながら、頭を下げた。
なんだかんだ言って、彼には迷惑をかけっぱなしだ。今も…昔も。
「大丈夫。これで、最後だから」
有くんを追いかけるのも。
有くんを好きでいるのも。
夢のような時間を過ごせば、きっと目が覚めるはずだから。
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作者名：ハル x他1人 | 作成日時：2019年5月7日 22時
