１話 ページ3
北海道。
辺り一面、真っ白な世界。降り積もる雪に白い息を吹きかけた。
「どうして、北海道なんかに」
下見をしろと言われてきたこの場所は、あまりにも寒すぎた。
首に厚めのマフラーを着けて、着込んでもなお、この身を震わせる寒さに舌打ちが漏れる。
うー、寒いのは嫌いなのに。
「ゥ、ブォー」
それに、ここにいるのは大きな熊ばかり。
背後に現れた熊を倒すべく、ボールを蹴り上げる。ボールは、熊の頭に鈍い音を立てて当たると、雪の上に転がった。
そして、大きな音と共に熊は雪の中へと沈む。
「熊しかいないのか、ここは」
ここ二日、あったのは人ではなく熊だけだ。
そろそろ、下見を終えてもいいのではなかろうか。
「へぇ、凄いね君」
「！！誰！」
熊に気を取られすぎた。
気配を察知できなかった自分に腹が立ちながらも、声がしたほうを向く。
白色の髪に整った顔。まさに、雪原の皇子といえる彼は、にこにこしながら私に近づいてくる。
「僕は吹雪士郎。君は？見ない顔だけど」
「私は…A」
「Aちゃんか。いい名前だね」
“いい名前だ”
重なって聞こえた有くんの声にブンブンと頭を振る。
そんな私を心配そうに見つめてくる彼は、きっと確信犯だ。その、整った顔で一体何人の女性を泣かしてきたのか。
「君もサッカーをするの？」
「まぁ、少し」
「僕もサッカーしてるんだ」
そう言って、軽くリフティングをした彼はにっこりと笑う。
この吹雪の中でよくリフティングができるな。なんて思うが、やはり慣れているのだろう。
「それで、どうしてこんなところにいるんだい？」
「……散歩」
「こんな雪の中で？」
「それは君もじゃない」
「…ここは僕にとって特別な場所なんだ」
訳アリか。
遠くを見つめる彼の瞳は、どこか寂しくて冷たい。
かける言葉はもちろんなく、ただ時だけが過ぎていく。初めて会ったばかりなのに不思議なもので、その沈黙に気まずさはない。
「うぅ、やっぱり寒い」
流石に冷えてきたな。
身を震わせて、そろそろ切り上げようかとサッカーボールを手に取ったその瞬間。
僅かに遠くから車のような光が目に入る。
あれは……。
「吹雪くん。車が…」
「ｶﾞｸｶﾞｸﾌﾞﾙﾌﾞﾙ」
「ちょっと、寒かったのなら早く言いなよ」
顔を真っ青にして震えている彼の手を握って、少しでも温まるように体を密着させる。
車が気付いてくれるのを祈るしかない。
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作者名：ハル x他1人 | 作成日時：2019年5月7日 22時
