幸せを願う【完結】 (ページ10)

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「いよいよ卒業だねぇ」

いつも通りの制服に身を包んだ真冬に、私はしんみりとした口調で言った。
いや、いつも通りだけど、少し違う。

いつもはつけていないネクタイをきっちり閉めて、寝癖も整えられている。まあ大方、真冬のお母さんがやったことだろうけど、それでもきちんとした身なりの真冬はいつも以上にかっこいい。

「そうだね。しかも、僕らが付き合い始めてから3年たったよ」

「記念日なんて覚えてもないくせに〜」

「瀬奈もでしょ」

真冬は、この一年半で、ずいぶん大人になった。つい最近まで、私が世話してるような感じで、瀬奈ー！なんて私に甘えっぱなしだったのに。

「……なーんか、変わったわねー、真冬くん」

「母さんみたいな喋り方やめてよ…」

「あーら反抗期？」

「うるさーい」

からかうと、真冬は耳を塞いで「きこえなーい」なんていうもんだから、「ごめんごめん」と謝る。

「ねえ」

「なーに」

「…体調は、大丈夫なの？」

びくり、と自分の体が反応するのが分かる。

おとといのこと、伝わってたのか。

体育の授業中に、倒れてしまったのだ。派手に、というわけではなく、よろけるような感じだけど。事情を知っている先生は血相変えて、救急車に連絡しようとしていたが、寸前でなんとか止めた。

大事にしたくなかった。

だって、そんなことになったら真冬は絶対心配する。そして、どうして言ってくれなかったの、と怒り、悲しむに決まってる。

それくらい、愛されている自信はある。

ただの貧血です、と私が言うと、先生は、「本当に大丈夫か」と気遣いながら、保健室まで連れて行ってくれた。小さく済ませたつもりだったけど、他クラスの真冬にまで伝わっているとは思わなかった。

「あー、全然？ちょっと貧血気味だっただけだよ」

「ほんと？」

「最近ダイエットしてたからね、ちょっとよろけちゃったの」

「ならいいけどさ」

詳しく話そうとしない私に、少し唇をとがらす君。

あーやっぱり、前言撤回。
いくつになっても、どれだけ時間が経っても、真冬の子供っぽいところは変わってないね。

なんて言ったら、きっと真冬は拗ねてしまうから、口が裂けても言わないけど。

「なんか、前もこんなことあったよね」

私はどうやら、感傷に浸るといることいらないことをべらべら話し出す癖があるらしい。今、そんなこと言わなくていいのに。なぜか、とても話したい気分だったのだ。

「そうだっけ」

「私がさ、健康診断ひっかかって、心配してくれたじゃん、真冬」

「…いつの話してんの。去年？」

「そうそう」