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傷つけない。
あなたの心に傷を残して死ぬくらいなら、私はずっと隠し通して死ぬよ。
だからあなたもその時は、どうか泣いてね。
そして、笑って。
「瀬奈、入るわよ」
部屋のドアがノックされ、隙間から現れたのはお母さんだった。
お母さんは、寂しそうな、苦しそうな顔をしてそこに立っていた。
「先生から聞いたわよ」
ああ、やっぱりお母さんに言ったのか。
ギリギリまで秘密にしてって言ったのに。
私は何も答えない。
お母さんは、続ける。
「ねえ、お金が心配なら、そんなの考えなくていいから。お母さんは、瀬奈が生きていてくれることが___」
「お母さん」
私は、強引に話を止めた。
「私、まだ生きてるよ」
「……うん」
「お母さん、私はさ」
まだ、生きてたいよ。
悲痛にもれた本音は、自分が思ったより弱々しくて、静まり返ったこんな夜じゃないと聞き取れないくらい微弱な光を灯していた。
それはまるで、私の寿命を示しているみたいに。
「…っ、なら!」
「でも」
結局、私は死んじゃう。
そう言った瞬間、お母さんがハッと息を呑むのがわかった。
そう、お母さん。
一番私に寄り添ってくれたお母さんなら、一番私の体をわかってるはず。
どうせ、あと半年も持たない命なんだよ。
「私、もうちょっとやりたいことあるんだ。まず、東京に行ってみたい。で、竹下通りで可愛いものいっぱい買って、食べて。お母さんにもお土産ちゃんと買うからね。それで、そうだな、真冬と映画見たり、ライブ行ったりもしてみたいの。それで、それでさ……」
そこまでいって、私は自分の視界がぼやけていることに気がついた。
「ね、だから、入院しちゃったら、行けないでしょ?東京」
震える喉に力を込めて、精一杯笑ってみせる。
その言葉だけでよかった。それだけで、お母さんはわかってくれる。
「瀬奈……」
お母さんは私に近づき、静かに抱きしめる。
それだけでよかった。
そしてもうすぐ、私の物語は完結するから。
ねえ、真冬。
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作者名:Ir | 作者ホームページ:http://manaaa
作成日時:2023年2月18日 20時