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面倒な校長先生からの挨拶や、保護者代表の言葉、学事報告などがつらつら並ぶプログラム。その上を、レールを走る列車のように進む。
普段なら、眠たくなってうとうとし始める生徒もいるだろうが、この日ばかりはそうはいかない。
この状況で居眠りできる図太い神経の持ち主は、多分いないだろう。
「卒業証書、授与」
体育館の正面ステージから、マイクを通して堂々とした声が届いた。
今日、3月17日、私たちはこの高校を卒業する。
………………
…………
……
「高校生活も終わりかぁ……」
「何回言うの、それ。なんか急におばさんになった?」
「だってさー、真冬とこうやって学校行ったりするのも、これで最後だよ?」
「別にいいでしょ。これからも一緒だし」
唐突にそんなことを言われて、私は言葉に詰まった。
嬉しい。
その気持ちが私を支配する、どうしようもないくらい。
うん、ずっと一緒。
私たち、ずーっと恋人だもんね。
言って、思いっきり笑えたら、どんなによかっただろうか。
そうして、真冬に飛びついて、思いっきり腕に力を込めて抱きしめられたら、どんなに。
でも、私にはそんな勇気も、資格もなかった。
君に、今愛を伝える資格なんて、私のどこにも存在しない。
ごめんね、真冬。
「そう、だね」
唇を噛み締め、溢れそうな涙を懸命に抑えて、出せたのはたったの4文字。
君の優しさと愛情に応えるには、それはあまりにも短くて、足りなくて、埋まらない。
「瀬奈」
そんな私を置いて、真冬は追い打ちをかけるように私の名前をよんだ。
嫌な予感と期待が入り混じって、私の感情はパンクしそうだった。
「なに?」
「聞いてほしいことがあってさ」
「うん、なんでも聞くよ」
期待って、私は真冬になんて言ってほしいの?
かけてほしい言葉すら自分でわからないのに、なにを期待しているんだろう。
私はおどけたような口調で、でも裏腹の静かに彼の言葉を待った。
「瀬奈、僕と、東京に来てくれない?」
「………え?」
沈黙を破ったのは、想像の斜め上をいく言葉だった。
「高校卒業してさ、僕、本気で音楽で食べていきたいと思ってるんだ。それで、瀬奈にもついてきてほしい」
真冬の瞳は一心に私だけを見つめていた。
対して、私はその真っ直ぐな目から視線を逸らすことしかできなかった。
「瀬奈がいれば、僕、なんでもできる。東京の音楽の大学に入ろうと思ってるんだ。勉強もしてる。東京で二人で、暮らさない?」
「真冬……」
だめだよ、そんなこと言ったら。
だって、この気持ちは、もう取り返しのつかないところまで来ちゃってるんだもの。
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作者名:Ir | 作者ホームページ:http://manaaa
作成日時:2023年2月18日 20時