Ep.02「本の持つ魔力」 ページ2
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本の匂いが好きだ。
薄い目をしてはらりと捲る
其の装丁、重み、感触。
内容に関心がなくとも、暇があれば書店に赴き、
表紙の帯を確かめ、本の質感を探る。
其れだけで、十分な多幸感に心が満たされた。
自分の手で小説を書き始めたのは、
不思議と自然な流れであった気もする。
其れを数年と経たずに辞めてしまったのも、
又自然な流れであった筈なのだ。
全てが狂い始めたのも、突然筆を取る手が止まったのも、言い様のない不安も、全てが偶然で、其れでいて必然で。
此処で終わりなのだと云う、
長い人生の節目に妙に納得した。
昼下がりの、未だ変わらない憧憬が頬を掠める。
白昼夢を見ていた様な心地に、
自然と胸が高鳴っている。
気が付くと其処は畳部屋ではなくて、
嗚呼、又かと心に虚構が生まれる。
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時々、そう云う事がある。其れはお洒落な喫茶店であったりもするし、視た覚えのない遠い夜景であったりもした。
兎に角、其れが明晰夢であるのか。
果たして正夢と同一視して良い現象であるのかはてんで見当もつかない。
決まって夢の中の自分は、首に紐を掛け、刃物を自らの腹に突き刺し、毒薬を呑んで、覚める頃には死に損なっていた。
Aは其れを小説の世界であると仮定した。
下らない心象風景に思いを馳せるのも、其処に神代以外の人間が居ない事も、其の空間が嫌に心地が良いのも、全て自身が、未だに小説の世界に没入して帰って来れないのだと、そう決めつけていた。
突然、無機質な機械音が領域内に侵入してきた。
其れは軈て世界の均衡を破るかの様にして、
Aを現実世界へと呼び戻した。
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神代普(プロフ) - 暁月臨さん» ご感想ありがとうございます!妄想を煮詰めた作品なので、気長に更新をお待ち下さい! (6月23日 0時) (レス) id: 737382ef27 (このIDを非表示/違反報告)
暁月臨(プロフ) - この作品大好きです!!作者様の文才がありすぎて衝撃を受けています!応援してます 頑張って下さい!! (6月21日 22時) (レス) @page13 id: 59dc159e7e (このIDを非表示/違反報告)
神代普(プロフ) - 紫苑さん» ご感想ありがとうございます!嬉し過ぎて頬が緩みまくっております…!! (6月6日 11時) (レス) id: 737382ef27 (このIDを非表示/違反報告)
紫苑 - 文才ありすぎですか、、、書き方が本当の小説みたいで、アイデアさえあったら世に出ている公式小説にも匹敵するオリジナル小説が書けると思えるくらい表現力と語彙力が豊富ですね!!! (6月6日 11時) (レス) @page13 id: 53005662e7 (このIDを非表示/違反報告)
神代普(プロフ) - 春さん» 好みと云う表現の仕方、大好きです!!ご感想ありがとうございます! (2023年5月4日 22時) (レス) id: 737382ef27 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:神代普 | 作成日時:2023年4月13日 20時