甘くて、苦くて、幸せで【すとぷり】【短編集】

浮気【さとみ】 ページ4

『さとみくん！』

「へー、そうかー！
…れい、うるさい。黙ってて」

『…っ』

私は、さとみくんに伸ばした手を握りしめて引き戻す

上の会話を見たらわかると思うけど、私とさとみくんはあんまり上手くいってない

さとみくんは、浮気をしている

本人の口から聞いたわけじゃないけど私には確信があった

私が話しかけてもほとんど無視

遊びに誘っても軽くあしらわれる

うちの洗濯物には時々私のものではない下着なんかが入ってたりする

その度に苦しくなって、泣きそうになる

でも私は、さとみくんが好きだから

大好きだから

離れたくなんかない

こんな私にも問題があるんだよね、きっと


次の日、家にいるのが苦しくなって私は家を出た

さとみくんは朝からいない

おまけに何の連絡も入っていない…いつも通りか

そう思って自嘲的な笑みをこぼす

なんだか遠くに行きたくて、私は電車に乗った

行くあてなんて無かったけど、ここから離れられるならどこだって良かった


玄関の重い扉を開ける

昔は家に帰って来るのが楽しみで仕方なかったのに

その瞬間、私を大きい何かが包んだ

一瞬のことで頭が追いつかず、思わず顔を上げる

そこには…さとみくんがいた

『え…』

「遅いから心配した
連絡も入れないで、何してたの」

その言葉は私が望んでいたものだった

そんなことを言われたのはいつ振りだろうと考える

抱きしめてくれるさとみくんがあったかくて、大きくて

私、まだ愛されてたんだ

そう思うと、嬉しくて

『私、ご飯作るね。
一緒に食べよ！』

私の言葉にさとみくんは大きく頷いてくれて

『ちょっと待ってて！』

と、鞄を置きに部屋へと走った

早くさとみくんの所へ帰りたい

そんな思いで部屋まで走る


ふと目を上げると寝室の扉が少しだけ開いているのが見えた

何故か嫌な胸騒ぎがして、私はその扉をそっと開ける

そこには、乱れたベットがあった

シーツはぐしゃぐしゃで床に布団が落とされている

明らかに寝ただけの乱れ用では無かった

(さとみくんは、ここで誰かと…)

そう思うと、背中に寒気が走り、嫌な汗が額に滲んだ

足が震えて、まともに立っているのだけでも困難になる

(嫌だ、そんなの…嫌…)

涙が滲んで、視界がぼやける

嫌だよ、さとみくん…



あの優しさは嘘だったの？

「愛してるよ」って言葉も

私にくれた笑顔も全部全部…


溢れた涙は止まることを知らずに流れ続ける

もう流石に無理だよ

ごめんね

ばいばい、さとみくん

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