ゆびさし空 3rd zone

☆ ページ29

『着いた…。』





自分の記憶の良さにホッとした。

何度か光莉さんと検診に来たこの病院。






ナースステーションで光莉さんの名を告げると、

伯父さんのところまで案内された。







『伯父さんっ！』


伯「おっ！A！」








分娩室と書かれたプレートがかかっている部屋の前。


祈るように前かがみで長椅子に座る伯父さんのところに急いだ。









伯「よー来れたな。」


『……馬鹿にせんで…。』









切羽詰まった伯父さんの顔が一瞬だけ綻んだ。


隣に座るとまた静かになった。









『……伯父さん、………光莉さん、大丈夫なんかな。』


伯「大丈夫に決まっとる。」


『でも、めっちゃ苦しそうやったよ、光莉さん。』


伯「人1人産むんやかい、当たり前やわ。」









部屋の中から光莉さんの壮絶な声が少しだけ聞こえてくる。


聞いてるだけで、胸が詰まって、苦しい。






………すごいな、光莉さん。


母親になるって、命がけなんやね。





お母さんも私のことを命がけで産んでくれたの……？


だとしたら……、命って重いな。







お母さんが苦しみながら、

泣きながら、

私に会いたいと、

必死になってくれたから。






私は今、ここにいるよ。

最愛の人にも逢えたよ。

実らない恋かもしれないけど、私は、精いっぱい恋してる。









母「だめ！
Aの人生に泥なんか塗りたくない！」









産む時と、あの時と、

２度も命をかけてくれたお母さん。


最後まで私のことを守ってくれた。









私の命は私のものだけじゃ……ないのかな。

……私がお母さんを殺したなんて言ったらダメなのかな。









お母さんが守ってくれた命と人生。

私が大切にしないでどうするの。

気をしっかり持たなきゃ。



しっかりと地面を踏みしめて生きてやる。

…………私の人生、もう、諦めたりしない。









お母さんに、会いたいな。









「……うんぎゃあ〜〜、おんぎゃあ〜〜〜！」

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