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ありがとうございました
語尾に近づくに連れて遠くなっていく声を聞きながら、太宰さんに渡されたお酒とおつまみの入った不透明なビニール袋を覗く。
「なんだか、奢って貰っちゃってすみません。」
「良いのだよ、私には余り物欲がないし、両手一杯にお金を抱えていても持て余してしまう。」
心中嗜好であるからね、と困ったように笑って付け足す。
自意識過剰かもしれないが、おそらくこれは彼なりの優しさなのだろう、私に罪悪感を生ませないようにとついたジョークなのであろう。
そんな他人から"だからなんだ"と聞かれてしまうくらいささやかな、瞬きする間に映る優しい嘘がどうしようもなく嬉しくて。
「それもそうですね」だなんて、彼のまるで愛玩動物を愛でるような視線には気づかず、照れ隠しに俯きながら返せば、彼は「一寸？！其処は嘘でも否定して欲しかったのだけど？！」と目をまんまる白目にして抗議する。
其処まですると会話はまた途切れてしまい、暗い夜道私達2人を居心地悪い空気が包んだ。
暗闇の中灯る街灯からスポットライトを受けた彼は、そう言えばと切り出す。
「そう言えば、君はこんな時間まで残業していたのかい？」
「ええ、体調不良の先輩の仕事の引き継ぎを...。太宰さんは此処で何を？」
「何処か落ち着かない夜でね、一寸散歩をしていただけさ。」
そのおかげで仕事終わりのAちゃんと運命的に逢えたと、けらけら笑う。その表情は私の胸をときめかすには十分すぎるもので。
恋の矢が的の中心を射たかのように、激しく揺れた心臓が鳴り止まなかった。
「もう少し散歩をするつもりだったが、気が変わった。寮まで送ろう。」
そう言い、太宰さんは包帯の巻かれた左手を差し出した。
「あ、ありがとうございます。」
おずおずと、ビニール袋を差し出すと、
彼は何故か驚いたようにして受け取り、逆の手に袋を持ち帰ると、残った手で重力に従いぶら下がる私の片手をするりと奪う。
「私はこっちのつもりだったんだけど、勿論初心なお姫様も素敵だけれどね。」
こんなんじゃ心臓が幾ら在っても持たないじゃないか。
「...揶揄わないでください。」
無情にも、楽しい時間に終わりが来る。
「送って頂きありがとうございました。」
「気にしないでくれ給え、私も帰り道だったしね。では、また明日ね。｣
彼は下の階へと少し遠ざかりながら優しげな瞳で手を振る。
「...好きだなぁ」
この一言が物語の始まりとなることは知らず、小さく呟いた。
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無農薬いちご(プロフ) - よかったです！わざわざレスしてくださって本当にありがとうございます！ (2023年3月12日 20時) (
レス) id: 796a8b7360 (このIDを非表示/違反報告)
音海しあ(プロフ) - 無農薬いちごさん» ちゃんとハピエンなのでご安心くださいませ....!!!! (2023年3月12日 20時) (レス) id: 1f4e19f4d2 (このIDを非表示/違反報告)
無農薬いちご(プロフ) - 雲行きが怪しくなってきましたね… (2023年3月12日 19時) (レス) @page20 id: 796a8b7360 (このIDを非表示/違反報告)
音海しあ(プロフ) - 星月夜さん» 星月夜様、コメントありがとうございます！比喩の部分が私自身のこだわっていたポイントだったので、そのように言っていただけて嬉しいです！ (2023年3月1日 6時) (レス) id: 1f4e19f4d2 (このIDを非表示/違反報告)
星月夜(プロフ) - 表現が素敵で凄く好きです。 (2023年3月1日 0時) (レス) id: 8be47c094d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：音海しあ | 作成日時：2023年2月26日 10時
