お山登り ページ40
全員の職場体験先が決まって、ようやく明日が職場体験だというその日の明朝に、勝己から連絡が入った。
爆豪勝己今から登山の準備して来い
と。理不尽というか横暴にもほどがある。しかし何故こんな朝早くから通知が来たのか理由はわかった。登山は朝早いのが基本と聞いたことがある。
しかし、登山と言ってもやったことはあるが(狩りの時だ)、本格的な衣服などは持ち合わせていない。
それらしいものを見繕ってから私は大急ぎで家を出た。
消太はまだ夢の中だった。
「遅ぇ」
理不尽極まりないその一言に私は返す言葉を見失った。
自宅の前に立つ勝己はまるでプロの登山家のように準備万端だった。本格的だ。
「行くぞ」
「わかった…」
何故いきなり?どうして登山??君が好きだからか???
聞きたいことは山ほどあるが、この暴君の前でそんなこと聞いたら面倒そうだ。それに…。
(私は彼に提供される側だ)
反論は極力控えた方がいい。
電車に揺られながら着いた先は、私もよく狩りに行く山地だった。偶然もよくあるものだ。
「…」
正直、人間が使う道を歩いているのに違和感しか感じない。普段は、獣道など人目につかない道を選ぶ。その方が都合がいいからだ。
私の、ろくに地面につかない足取りに気づいたらしい、勝己が「ちゃんと地面踏みしめて歩けや」と苛立ちを混じえた声を出した。確かにちゃんとした足取りでないと転んで危ないだろう。
私はしばらく大人しく歩いていたが、やがて本格的にこの現状に飽きてきてしまった。
なんというか、退屈だ。
勝己より一足後ろを歩きながら、そう感じた。
いつもなら、自然に身を投じて、獲物を追いかける。
裸足で、今のように着込まずに、風を、大地を、肌で感じるのだ。
そこでは、人間社会では味わえないたくさんの感覚がある。
そこで学んだことがたくさんある。
野を駆けたい。大地に飛び込みたい。
私に今ある欲望はそれだけだった。
「…おい」
勝己の声は、物思いに耽っていた私を現実世界に戻すのに十分なものだった。
「言いたいことがあんならはっきり言え」
振り返ってこちらを見た彼の目と合い、先日のことを思い出した。
例の紙片を渡した、彼のことを。
あるがままの私を認めてくれた彼のことを。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 197人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
サラ(プロフ) - 未戳さん» お褒めいただき光栄にございます!楽しみにしていてください。 (2016年11月4日 22時) (
レス) id: cb57f05521 (このIDを非表示/違反報告)
未戳 - 今まで読んだ作品の中で一番面白いです!毎回楽しみにしてますよ!! (2016年11月3日 11時) (レス) id: e8817cfbda (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - ももタ郎。さん» ありがとうございます！是非とも頑張らせていただきます! (2016年10月11日 22時) (レス) id: cb57f05521 (このIDを非表示/違反報告)
ももタ郎。(プロフ) - 続編おめでとうございます！応援してます！ (2016年10月11日 22時) (レス) id: 222ce333cf (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - リズさん» ありがたいです!是非とも頑張らせていただきます! (2016年10月10日 20時) (レス) id: cb57f05521 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：サラ | 作成日時：2016年10月10日 15時
