妖婦と獲物 Side.Protagonisｔ ページ28
「勝己、お腹が減った」
そう、何気なく言われたそれを聞くと、寝台から起き上がった。あの、紅い目が俺を捉えた。
昨日から俺たちの間にある契約が生まれた。それは“共生”というたった一言で表せるだけの関係だ。
寝台の下で、まるで獲物を狙うかのように、華奢な肉体がこちらへと這い寄ってくる。俺もそれに伴ってシャツを脱いだ。我ながら、年の割にはよく鍛えている方だとは思う。
その己の身に、白い指が這う、這う。
まるで指の腹だけで“獲物の味”を確かめているかのようだ。
不思議と這われた後の肌が粟立つことはなかった。
ギシリ、と寝台がのしかかってくる重みに悲鳴を上げた。その音ですら今自分が見ているこの光景に呑まれてしまっていた。
「…おい、早うしろ」
いい加減しないと、こっちまで呑まれそうだ。この、妖婦の毒に。
(ついこの間まで、慣れたと思ってたんだけどな…)
初めて会った時の、その衝撃を俺は生涯忘れることはできないだろう。
それと同じ感覚が今我が身を襲っていた。
肩に、乳白色の牙が乗っかった。注射を射たれる時よりも鈍い痛みがそこに走る。つい、目を閉じてしまった。
ドクン、ドクン…
血が流れる音がする。自分の心臓から、血脈へ。血脈から、Aへ…
(そうか。俺んが、Aの中に…)
そう思うと、不思議と肩に突き刺さる牙の痛みなど消えた。
この赤い糸でできた繋がりは、もう断ち切ることなどできないのだ。
断ち切ろうとして、してしまえば、Aは滅んでしまう。
そう思うと、気分が良かった。
(Aは俺がいないと駄目なんだ…おまえは…)
酷く歪んだ糸だ。けれど、今はそれだけで十分だった。
何分とかかったかわからない。いや、もしかしたら俺が知らないだけで何秒と何時間とかかっていたのかもしれない。
俺の肩を離れるAの牙には、赤い糸と銀色の糸が絡まり合って、酷く扇情的だった。
おまけにAが口から伝い落ちる血を指の腹で掬って戻すもんだから、劣情がどこかで掘り起こされた。
「…ありがとう」
最後一つ喉を鳴らせば、Aはいつもと変わらぬあの無表情でこちらを見つめてきた。
「…なぁ、俺の血はどうだ?貪りたくなんのか」
我ながら危険なことを聞くものだと、内心冷や冷やした。
Aはその質問に答えず、「…今ここであったことは全て過ちだった」とだけ言って、部屋を出ていってしまった。
あの紅い目が見つめてくることももう、なかった。
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サラ(プロフ) - 未戳さん» お褒めいただき光栄にございます!楽しみにしていてください。 (2016年11月4日 22時) (
レス) id: cb57f05521 (このIDを非表示/違反報告)
未戳 - 今まで読んだ作品の中で一番面白いです!毎回楽しみにしてますよ!! (2016年11月3日 11時) (レス) id: e8817cfbda (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - ももタ郎。さん» ありがとうございます！是非とも頑張らせていただきます! (2016年10月11日 22時) (レス) id: cb57f05521 (このIDを非表示/違反報告)
ももタ郎。(プロフ) - 続編おめでとうございます！応援してます！ (2016年10月11日 22時) (レス) id: 222ce333cf (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - リズさん» ありがたいです!是非とも頑張らせていただきます! (2016年10月10日 20時) (レス) id: cb57f05521 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：サラ | 作成日時：2016年10月10日 15時
