私は煙となりたい ページ39
「A?こんな所で何してる?」
私は聞き覚えのある声に、顔を上げました。そこには、これまた見覚えある男が立っておりました。
「サク…」
そう、作之助です。
私は彼が荊棘道に突如現れた救世主のように見え、直ぐさま抱きつきました。
「ッおっと、どうしたんだ?」
「…ごめんなさい。暫くこうさせて欲しい」
私はまるで被害者のように振る舞う自分が許せなくて、その悔しさに涙さえ流してしまいました。
何が遭ったのかさえわからないのに、作之助は「俺の家へ行こう」と私を連れて歩いてくれました。
涙で視界の霞んだ私は歩くことさえ困難で、彼に手を繋いでもらわねば碌に歩けない状態でした。
初めて繋いだ彼の手は、銃ばかり握って肉刺だらけの、骨張った手でした。
けれど、その手はどんな人間の手よりもとっても美しく感じられました。
作之助の家は賑やかでもなければ辺鄙でもない、中間的な土地にありました。
築10年は軽く超えていそうなアパートは、窓枠にボロボロのビニール傘が置いてあったりと、その住人層を伺わせておりました。
同じ最下級構成員であるというのに、この差は…とつくづく自分たちが凸凹な相方であると実感しました。
作之助の部屋の表札の名は、『維康』という偽名が書かれておりました。職業柄、構成員が表札の名前を偽造するのはよくある話でしたから、特に驚きませんでした。
「少し散らかってるかもしれないが、気にしないでくれると助かる」
私はそんなことはないと思いました。
部屋は殺風景で、気になるものと云えば、卓袱台の上の吸殻がてんこ盛りとなった灰皿くらいでした。
銃火器以外、特に変哲もない大学生の部屋を見ているような気分です。
私は卓袱台の前にちょこんと正座し、外套を脱ぐ作之助を見つめました。
「…茶くらいしかないが、何か飲むか」
「…いらない。何も喉を通る気がしない」
「…中原さんと何かあったのか」
私は思わず視線を逸らしてしまったので、作之助はは図星だとわかってしまったようでした。
けれど、そこから何も聞くことをせず、一服してもいいかと尋ねるだけでした。
私が承諾すれば、作之助はその…色艶のいい唇に煙草を挟んで、一服始めてしまいました。
煙草の煙になりたいと願ったのは生まれて初めてのことでした。
煙となって彼に吸われ、彼の胎内で消えて行きたい、と。
私はそれほどまでに、もうすっかり彼の虜でした。
58人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
サラ(プロフ) - 真昼ノ夢さん» 嬉しいコメントありがとうございます!今後も楽しみにしてください (2017年5月11日 1時) (レス) id: cb57f05521 (このIDを非表示/違反報告)
真昼ノ夢(プロフ) - すっごく面白かったです!一気に読んじゃいました(*^^*)更新を楽しみにしています (2017年5月10日 22時) (レス) id: 91c8c67e41 (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - kanameさん» うれしいコメント誠にありがとうございます…変換ミスやっちまったなあ… (2017年5月7日 20時) (レス) id: cb57f05521 (このIDを非表示/違反報告)
kaname(プロフ) - スッゴク好みです( ☆∀☆)応援しています(^o^)vあと、25ページの君が黄身になってますよー (2017年5月7日 19時) (レス) id: e97e2f1677 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:サラ | 作成日時:2017年5月6日 9時