プライドを食む ページ36
未だにしつこくメールアドレスを聞き出そうとされ、遇らうのさえ億劫になってきていたAに、中也はひそかに罪悪感を感じていた。
実は、Aは正式に招待されていなかったからだ。
太宰は呼ばれていたが彼奴は行く気がなかったから無視した。
けれどAは、男店員たちが強くせがんだので、仕方なく来てくれるように頼んだのである。
店員たちがAを強く気に入っていたのには気づいていた。毎回店に顔を出す度に、『中原さん、今日は林さんは来ないんですか?』としつこく聞いてきたからである。
Aは兎に角異性にモテる。その容姿に、儚い風貌が庇護欲を掻き立てるらしい。
中也は彼女の素性も性分も知っていたからそうではないが、この店の大体の男は彼女に靡いた。
けれどそれに対をなすかのように、女には全く受けなかった。
どうも、彼女らはあの美顔と群がる男たちに目もくれないあの態度の組み合わせが気にくわないらしい。
『そんじょそこらの男なんて相手にしたくない』と言っている風にも取れるのだそうだ。
女心というものが中也にはよくわからなかったが、自分と酒を飲み交わす女達はAのことをまるで視界にも入れようとしなかった。
飲んでいる中、チラチラ彼女の姿を確認すると、彼女は大分御機嫌斜めな様子だった。
男の首を掻き切ってくれなきゃいいが、と中也はソフトドリンクを煽る。
昔聞いたところによれば、彼女を心の底から怒らせた者がいて、其奴は今この世にいないという。
何でも誰も彼女が怒った姿を見たことがないのは、彼女を怒らせた者は全て彼女に亡き者にされているから…と強ち嘘でもなさそうな噂がポートマフィアには存在している。
真逆な、と中也が少し視線を逸らした瞬間事は起こってしまった。
パン!と行成肉を叩く音、そして何かが崩れ落ちる音。
中也を含め全員が驚いて、何だどうしたと音の発生源に目を向けた。
その先には、片頬を赤く腫らして地面に腰を着いた男と、
「…マフィアで賭け事なんて大した度胸してるわね。
じゃあ、私の口から貴方たちの中で誰を選ぶか当ててあげましょうか?」
轍を這う蛇の如く低く、冷たい声で言い放つA。
これはまずい、と中也が止める前にAは吐き捨てた。
「あんたみたいな包茎男、私が相手に選ぶわけないでしょう」
「…ヒッ」
引っ叩かれた男は情けなくもべそをかいて引き攣った声を上げた。
最早ここは宴の席でない。女郎蜘蛛の巣だった。
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サラ(プロフ) - 真昼ノ夢さん» 嬉しいコメントありがとうございます!今後も楽しみにしてください (2017年5月11日 1時) (レス) id: cb57f05521 (このIDを非表示/違反報告)
真昼ノ夢(プロフ) - すっごく面白かったです!一気に読んじゃいました(*^^*)更新を楽しみにしています (2017年5月10日 22時) (レス) id: 91c8c67e41 (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - kanameさん» うれしいコメント誠にありがとうございます…変換ミスやっちまったなあ… (2017年5月7日 20時) (レス) id: cb57f05521 (このIDを非表示/違反報告)
kaname(プロフ) - スッゴク好みです( ☆∀☆)応援しています(^o^)vあと、25ページの君が黄身になってますよー (2017年5月7日 19時) (レス) id: e97e2f1677 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サラ | 作成日時:2017年5月6日 9時