恨み節を育む ページ23
「それでも...!それでも、私にとっては自慢の兄だった!!」
「...」
彼女の号哭と憂愁が私の胸に突き刺さった。
店内は彼女の慟哭が暫し響き渡った。
(嗚呼、むしゃくしゃする)
こんな何の力も持たない女が、死にそうな想いで私を殺しに来たかと思うと。
私が本当に、殺しをしたくて姉弟を手に掛けたと思っているのか?
あの時はそうせざるを得なくてそうしただけなのに。
私が案じているのはこの女のこの先の行く末だ。
ポートマフィアの構成員を手に掛けようとしたなどと首領クラスに知られたら、それこそこの女は見せしめの為だけに泥舟に乗せられる。
『彼女が殺そうとしたのはポートマフィアの林Aでなく遊女の雪子だから』だなんて理由で見逃してくれる幹部が今のマフィアにどれだけいるだろうか?
素直に報告してしまえば、私がこの女を殺したも同然だ。
なるべく血を流さないように済むにはどうしたらいいか...。
私に一つの考えが浮かんだ。
「...一つ、遊戯をしよう」
私の突拍子もない発言に、全員が目を見開くのが判った。
私はそれら全てを無視して、持っていた拳銃の弾丸を幾つか抜く。慎重に。
そして、其の拳銃を襲撃者の手中に収めた。
「な、何の心算?」
「ロシアン・ルーレットだ。如何いう結果になっても貴女が私を射つのは此れが最初で最後。
私が射った後、貴女が射つ。貴女の脳漿が此処にぶちまかれるか、私の心臓が噴き出すか」
「A、止せ」背後から作之助が制する声がしたが、私は止まらない。
「どちらとも死んでも、生き残っても文句なし。いいな」
「A!」
女は私の目を見て、おずおずと頷いた。其の反応から、やはり彼女は陽の当たる世界が似合うと思った。
「私の番」
私は、自分の顳�に銃口を向けた。作之助が止めに来る前に、私は引金を引いてやった。
カチっ。音が鳴るだけで、何も起こらない。当たりだ。
今度は襲撃者の番だった。
ブワアッ。死に対する恐怖が、辺りを漂う。
「出来ないの?臆病者」
私は無慈悲にも、女が引金を引くのを手伝ってやった。つまり、私が引いた。
銃声は鳴らなかった。
「...約束は守れ。マフィアは約束とか掟にうるさい。
次殺しに来たら骨だって残してやらない」
私は女の上からどいてやった。彼女は覚束ない足取りで店を出て行った。
やっと面倒事が消えたと息を吐いたら、突然頬に平手を喰らわされた。
作之助の、怒りに染まった瞳があった。
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サラ(プロフ) - 真昼ノ夢さん» 嬉しいコメントありがとうございます!今後も楽しみにしてください (2017年5月11日 1時) (レス) id: cb57f05521 (このIDを非表示/違反報告)
真昼ノ夢(プロフ) - すっごく面白かったです!一気に読んじゃいました(*^^*)更新を楽しみにしています (2017年5月10日 22時) (レス) id: 91c8c67e41 (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - kanameさん» うれしいコメント誠にありがとうございます…変換ミスやっちまったなあ… (2017年5月7日 20時) (レス) id: cb57f05521 (このIDを非表示/違反報告)
kaname(プロフ) - スッゴク好みです( ☆∀☆)応援しています(^o^)vあと、25ページの君が黄身になってますよー (2017年5月7日 19時) (レス) id: e97e2f1677 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サラ | 作成日時:2017年5月6日 9時