憾みの力 ページ22
ちりん、と来客を告げる鈴が鳴ります。
「おう、いらっしゃい!」店主が朗らかな営業スマイルというやつを浮かべます。
何処か憂いの帯びた長髪の美人が、俯きながら店に入ってきました。
作之助も其の異変に気付いているようで、目だけで彼女を追います。
美人は私の立っているところに一番近いテーブルに座りかけたと見せかけ、ナイフを片手に私に飛びかかってきました!
私は当然彼女の殺気を知っておりましたから、逆に其の細い身体を床に押さえつけてやりました。
懐から拳銃を取り出して彼女の目と鼻の先に突きつけてやりました。
「随分とお粗末な襲撃ね」
私にとって奇襲と暗殺は日常茶飯事なものでした。別に彼女が堅気であるという事は雰囲気から読み取れていたのですが、念のために『浮雲』で確認しました。
生憎、恨まれるのも殺されかけるのも慣れています。人の恨みを買うだけの仕事です、心当たりがあり過ぎて、彼女が何処の誰なのかは判りませんでした。
彼女の生まれてから今に至る記憶を見ても、彼女がマフィアと関連する物は何一つありませんでした。彼女は、私さえいなければきっと殺される理由は持っていなかったでしょう。
「貴女の兄が、郭の黄金屋で暗殺者に殺された。死に物狂いで掴んだ情報で、その暗殺者がポートマフィアに現在所属している事が判った。そんな処ですか?」
私は彼女の記憶の中で、彼女に微笑みかけていた男の顔を覚えておりました。
私は殺した相手の顔を忘れたくっても忘れられない質です。
彼等が夜な夜な私の枕元で『死んでしまえ』と囁いて来るからでした。
その中に、彼女の兄の顔もちゃんとありました。
「”黄金屋の雪子”...!殺された兄の仇を取りに...!!」
「貴方、自分の今の状況知ってて言ってるの?」
私はわざと鼻で笑います。
それを聞いて、彼女は悔しそうに歯を食いしばりました。
店内には、暫く彼女の歯噛みする音しか聞こえてきませんでした。
私は追い打ちを掻けてやる事にしました。
「貴方の兄はそれはそれは最低な男だった。
職場では自分の立場を利用してやりたい放題だったそうだ。恨みを抱いていた女はたくさんいた。そんな彼女らから依頼された。最も無惨で嫌がるようなやり方で殺してほしいと。
店でもあれほど極悪な客はいないと評判だった」
けれど、此の妹の記憶の中では...。
襲撃者の目から一筋の涙が溢れた。其れは幾つもの又になって別れ、やがて床に水溜りが出来た。
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サラ(プロフ) - 真昼ノ夢さん» 嬉しいコメントありがとうございます!今後も楽しみにしてください (2017年5月11日 1時) (レス) id: cb57f05521 (このIDを非表示/違反報告)
真昼ノ夢(プロフ) - すっごく面白かったです!一気に読んじゃいました(*^^*)更新を楽しみにしています (2017年5月10日 22時) (レス) id: 91c8c67e41 (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - kanameさん» うれしいコメント誠にありがとうございます…変換ミスやっちまったなあ… (2017年5月7日 20時) (レス) id: cb57f05521 (このIDを非表示/違反報告)
kaname(プロフ) - スッゴク好みです( ☆∀☆)応援しています(^o^)vあと、25ページの君が黄身になってますよー (2017年5月7日 19時) (レス) id: e97e2f1677 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サラ | 作成日時:2017年5月6日 9時