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痺れる指先でカッターを握り直し、投げ出した腕に顔を向ける。

もうどうにでもなってしまえ。

思いっきり突き刺してやろうと剥き出しの刃を振りかぶった、その時だった。


「……ひっ!」


唐突に鳴り響く着信音に、体がビクッと硬直する。

机を見ると、画面に「そらる」の文字が表示されたスマホが振動している。

スマホを手に取る活力も無かった僕は上手く力の入らない手で応答ボタンを押し、スピーカーホンに切り替えた。


「もしもし」

『よお、まふ。大丈夫か?』

「……何が?」

『変なこと言われたり、されたりしてないか?』

「あぁ……うん、平気。お母さん、さっき出かけたから」

『……そうか』


少し気だるげなそらるの声が、波紋となって広がっていく。

沸いていた体温が冷まされて、少しずつ正気が戻ってくる。


『お前、今何してた?』

「えっと……」


自傷行為。

リスカ。

昨日したばかりの約束を、もう破ってしまった。

自分の体を大事にする、そのために努力するはずだったのに。


「……家事。掃除とか、洗濯とか」


虚言。

嘘を吐いた後の僕には、罪悪感しか残らなかった。


『なんか、お前鼻声じゃないか? 泣いてるのか?』


そらるの勘の鋭さに、背筋が強張る。


「ううん、泣いてなんかないよ。もしかしたら風邪引いちゃったのかも」

『……そうなのか? なら、今日は早く休めよ』


腑に落ちないと言いたげな声で、僕の体調を気遣うそらる。

その優しい声が届くたびに、胸の内が締め付けられた。

騙している。

誤魔化している。

その事実が、僕の首を強く絞めた。


「……そろそろ、家事に戻るね。再開しないと、夕方までに終わらなくなっちゃう」

『そっか、分かった。無理するなよ、ただでさえ体調崩してるんだから』

「うん、ありがとう。それじゃ」


通話を切る。

何も考えない無駄な時を数十秒ほど過ごした後、覚束ない足取りで棚に向かう。

包帯を一束取り出し、慣れた手つきで巻き付けた。ついでに膝にも絆創膏を貼る。


「これでよし、と」


血痕を始末し、綺麗になった部屋を後にする。

台所に散らかった皿の破片を片付け、いつもの仕事を開始した。

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作者名:マミカ | 作成日時:2019年11月3日 16時

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