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「死にたい」
いつも通りの通学路。
俺の隣を歩いていた幼馴染が、ふと立ち止まって呟いた。
「今日は体育の授業があるじゃん。部活なんて行きたくないし。掃除当番代わるの嫌だし。楽しいことなんて何もないよね」
先程まで続いていた他愛もない話は、この不穏な独り言に腰を折られた。
俺は開きかけていた口を閉じる。
こいつが暗い話を振ってくること自体はそう珍しいことではないが、今回は少し重症らしい。
横断歩道へ踏み出そうとするまふの肩を掴むと同時に、明滅する信号が赤く灯った。
「どうしたの?」
不思議そうにこちらを振り返るまふ。
その背後を大型トラックが横切り、轟音と共に過ぎ去って行った。
「まふ」
「なーに?」
「あれ出せ」
まふはわずかに首を傾げた後、合点がいったという顔でスクバの中をまさぐった。
しばらくして、お手をする犬のような仕草で一本のカッターが手渡される。
含み笑いに見つめられる中で、俺はカチカチとカッターを鳴らした。
「……やりやがったな、お前」
「だって楽しいんだもん!」
まふはペロリと色の良い舌を出した。
わざとらしいくらい開き直っている。
刃にこびりついている赤い物体を見られても、悪びれる様子は全くなかった。
「没収」
俺はカッターを胸ポケットにしまった。
途端にまふの笑顔が崩れる。
まさかこんな強行手段を取られるとは思っていなかったようだ。
「べ、別に死のうと思って自傷してるわけじゃないよ? リスカの致死率なんて五パーセント未満! 死にたくても死ねないよ!」
「……どこの情報だか知らないけど、その五パーセントにお前が入ったらどうすんだよ」
まふは不服そうに頬を膨らませた。あからさまに拗ねている。
「とにかく没収。適当な頃合いで返すから」
宥めるように頭を撫でると、微かに綻ぶ口元が見えた。
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作者名:マミカ | 作成日時:2019年11月3日 16時