◇第二十二条 ページ22
全員が全員そんな風に言ったわけではないと分かりつつも、悲しさと寂しが込み上げてきた。
___そっか。
もう、思い出を残すことも出来ないんだね。
強く握りしめた拳が震える。
これは自分を襲った人への怒りや恨み、それとも町の人への悲しみや不満なのだろうか。
いろんな感情が荒波の様に心に押し寄せ、私はただ、半壊している家を前に泣く事しか出来なかった。
「すみません……私、泣いてばかりですね。こんなんじゃ、天国にいるおじさんとおばさ……!」
沖田さんを見上げようとしたときだった。
突然、後ろから強い力で抱き寄せられた。
「えっ……あの、沖田さん?」
「……しっ、喋るな」
彼の低い声が、私の左耳をかすめる。
そしてそのまま、体を抱き寄せられた状態で物陰へと隠れる沖田さん。
「……こりゃまぁ、たいした運でさァ」
状況を把握出来ないでいると、沖田さんが私の体を離す。
「あそこの浪士が見えますかィ?」
沖田さんが指差す方向には、腰から刀を下げた若い男が2人いた。
うん、うん。と、声を出さずに頷く。
「アイツらは、俺たち真選組が追ってる手配中の浪士だ」
「手配中の浪士……?ということは、悪い人達ってことですか?」
「悪い人達、か。そんな言葉で済む程度ならよかったんですがねェ」
沖田さんは2人の男をじっと見つめたまま話す。
……すると。
私たちの視線に気づき出したのかは分からないが、彼らが歩き出した。
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作者名:みさ | 作成日時:2016年7月16日 21時