アンナチュラルな葬儀屋さん。

2 ページ3

side木林

彼女は時折、無表情で御遺体を見つめている。
その横顔が何とも言えず切な気で、またとても美しく、いつも見つめてしまう。時間が止まれば良いとさえ感じるその瞬間を、もういくつ重ねてきただろうか。
何を考えているのか。何を感じているのか。
その一端を立ち聞きしてしまったのかもしれない。

久部さんがラボの駐車場で電話をしているのが聞こえてきて、思わず足を止めた。
三澄さんの生い立ち。それは雨宮さんの生い立ちでもある。
「雨宮、浦和市、一家四人無理心中」…聞こえてきたそれを興味半分で調べてしまった自分に嫌気がさした。
雨宮さんは目撃したのだ。自分の母親が自分の家族を殺していくその過程を。
実際のところ、どこまで彼女にその記憶が残っているのかは、彼女に直接聞かなければ分かりかねるが、自分の家族の心中の光景なんて、一瞬の光景でも絶望するにはあまりあるだろう。
御遺体を見つめる彼女は、自分の家族を思い出しているのだろうか。


そんな折でした。
鈴木果歩さんの御遺体が消えたのは。
初めての出来事に、さすがの私も少々慌てました。
警察からUDIラボに御遺体があるかもという未確認情報をいただいたき、急いで駆けつけましたが、時すでに遅し。解剖は始まっていたのです。
幸い、鈴木果歩さんのご両親に咎められることもなく、引き続きフォレスト葬儀社での葬儀を希望してくださいましたが、こちらの管理責任は明白で、警察の事情聴取も重なり、疲労困憊でした。

3→←「死の報復の、その裏側で」

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す