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「ごめんなさい、遅くなってしまって…」
"俺、ずっと男子校なんでそういうことには疎いっすけど…なんかあったらいつでも。河村さんと俺、ちょっとだけ通ずる所があるんで" と、照れ臭そうに笑った伊沢さんは部屋を出た。とっくに皆さんは撮影準備を終えていたらしく、撮影部屋で手持ち無沙汰になっていた皆さんに謝る。
「あぁ、ウチの伊沢が迷惑掛けたでしょ。ボケは全然スルーしていいからね」
慌ただしく謝罪をする私に、福良さんが優しくそう声を掛けた。特徴的な笑い声が部屋に響き、それに対する伊沢さんのツッコミが包み込む。
河村は、こんな素敵な場所で仕事が出来てるんだ。
「それじゃ、始めよっか」
*
流れるように撮影が進んでいく。もう全員のヘアメイクは終わったが、まだ帰ることは出来ない。動画撮影は様々な嗜好を凝らしているから、途中でお直しが必要な場合が出てくるらしい。
少しだけ撮影風景を覗いてみたり、お昼休憩の時には社員さんと話してみたり、びしょ濡れになった皆さんのヘアメイクをしたりしていると、もうあっという間に月が昇っていた。
「はい、終わりー」
軽やかな福良さんの声で、今日の長い撮影は終わった。撮影部屋から続々と出てくる人だかりの中に、河村は居る。そのまま支度をして帰路に着く人、まだ執務室で仕事をしてから帰る人と2パターンに別れる中で、河村はもう帰路に着くようだ。
第一陣がオフィスから出て行き、賑やかだった室内が少しだけ静かになる。私も荷物を纏めて帰ろうとした時、廊下の壁に寄りかかった河村が、そこに。
「送ってくよ」
下を向いていたせいか目にかかった前髪を戻しながら、河村は私を見る。まだ若かった、制服姿の彼と重なってしまって、一瞬で鼓動が早まった。
こんなことであたふたするような私では無かったはずなのに、煩い鼓動は一向に静まる気配がない。
「…ありがとう」
「家、どこら辺？」
「ここから下りで5駅ぐらい行ったとこ」
「丁度いいな、僕もそれぐらい」
きっと、あの頃と重なって仕方がないのはコートのせいだ。河村の匂いが染み付いた、あのコート。近くに行けば行くほどに鼓動が早まって苦しいのに、進む足は止まらない。止められない。
外に出ると、寒さが一気に押し寄せてくる。
慣れない仕草でドアを開けて私を通してくれるところ、歩幅を合わせてくれるところ、ハッとしたように突然車道側を歩いてくれるところ。何もかも変わっていない。あの頃のままの河村が私の隣に居た。
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豆大福(プロフ) - akariさん» 気付いて頂けて嬉しいです。あのお話のモチーフにさせて頂きました〜！これからも少しだけ要素は取り入れるので、引き続き読んでいただければ幸いです！ (2021年1月14日 16時) (
レス) id: 1465863246 (このIDを非表示/違反報告)
akari(プロフ) - コメント失礼します。違ってたら申し訳ないんですけど、アラシックの方ですか？？台風ジェネレーション、いい曲ですよね。大好きなんです！！ (2021年1月11日 23時) (レス) id: dcff645a31 (このIDを非表示/違反報告)
豆大福(プロフ) - *ゆ う*さん» たくさんの嬉しいお言葉ありがとうございます。そう思って頂けたら良いなと思いつつ書いたので、伝わって良かったです〜！これからもどうぞお楽しみください…！ (2021年1月9日 10時) (レス) id: 1465863246 (このIDを非表示/違反報告)
*ゆ う*(プロフ) - 最初から胸が締めつけられるいい感じの切なさで好きです。これからの二人の関係の進展も気になるところです。甘いのも良いですがちょっぴり切ない物語もいいなぁと思わせてくれる作品ですね！お気に入り登録したので更新楽しみにしています！ (2021年1月7日 20時) (レス) id: a6ab41580b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：豆大福 | 作成日時：2021年1月7日 19時
