不確実性アイロニー ページ6
部屋を出ると、そこには伊沢が居た。ガチガチの防音室でもないので、きっと僕らの会話は彼に聞こえていたことだろう。盗み聞きをするために伊沢がそこにいたのなら、趣味が悪いとでも言っておこう。
「甲斐さんと、昔何かあったんすか？」
随分とド直球の球が飛んできた。そんなにも直球で来ると思ってはいなかったけれど、思い返してみればこいつはいつでもド直球だった。
思わぬ質問に目を丸くして、少し返事に戸惑う。
「…どうだっていいだろ」
無言の空間がただただ過ぎる。すぐそこにある執務室からは笑い声が聞こえてくるけど、まるで別世界だった。僕だって極力こんな空気感は味わいたくない。
でも、昔のことを二つ返事で伊沢に話す筋合いは無かった。僕らに昔、何があろうとお前には関係ないよ。お前には秒針を巻き戻せない。
「伊沢さ、…」
入れ代わり立ち代わりで目を丸くしているところに、部屋から甲斐が顔を出した。僕が伊沢を呼びに行くと言ってから中々こないものだから、様子を見に来たのだろう。彼女が来ることで、益々変な空気だ。
「…伊沢さん、次です」
あぁ、どうして、こんなことに。
*
別に、河村さんと甲斐さんの会話を盗み聞きしようと思ったわけじゃない。単に順番が次で、もうそろそろ俺の番だろうと思ったから。ただそれだけ。
でも、意図せず「それだけ」じゃ終われなかった。
意味ありげな会話が繰り広げられるこの扉の向こう。全部の会話が聞こえてきた訳じゃないけれど、その会話は過去に何かあったと確信できるもので。
「…さん、沢さん、伊沢さん」
「あ、すみません。考え事してました」
「お仕事大変そうですもんね。しっかり寝れてないでしょう、マッサージでもしましょうか？」
「…お言葉に甘えときます」
椅子に座って、セットされながらぼうっとしてしまっていたらしい。鏡の中の甲斐さんは肩を上げて、へらりと笑った。この数時間でその仕草を幾度か目にしたが、彼女の癖なのだろうか。
「…河村さん」
不意に、俺が彼の名を言葉にすると、彼女は明らかに身体が強ばった。出会ったばかりの人間にこれ程勘繰られるのは良い気がしないだろう。それは嫌という程分かっているが、あれだけ匂わせられて、知りたくならない人間は居ない。それが人間の性という物。
「河村が、どうかしましたか」
「高校の時の、何なんですか」
河村さんが明らかに濁したあの言葉。気にならずには居られなかった。
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豆大福(プロフ) - akariさん» 気付いて頂けて嬉しいです。あのお話のモチーフにさせて頂きました〜！これからも少しだけ要素は取り入れるので、引き続き読んでいただければ幸いです！ (2021年1月14日 16時) (
レス) id: 1465863246 (このIDを非表示/違反報告)
akari(プロフ) - コメント失礼します。違ってたら申し訳ないんですけど、アラシックの方ですか？？台風ジェネレーション、いい曲ですよね。大好きなんです！！ (2021年1月11日 23時) (レス) id: dcff645a31 (このIDを非表示/違反報告)
豆大福(プロフ) - *ゆ う*さん» たくさんの嬉しいお言葉ありがとうございます。そう思って頂けたら良いなと思いつつ書いたので、伝わって良かったです〜！これからもどうぞお楽しみください…！ (2021年1月9日 10時) (レス) id: 1465863246 (このIDを非表示/違反報告)
*ゆ う*(プロフ) - 最初から胸が締めつけられるいい感じの切なさで好きです。これからの二人の関係の進展も気になるところです。甘いのも良いですがちょっぴり切ない物語もいいなぁと思わせてくれる作品ですね！お気に入り登録したので更新楽しみにしています！ (2021年1月7日 20時) (レス) id: a6ab41580b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：豆大福 | 作成日時：2021年1月7日 19時
