先輩の阿部さん ページ10
A「失礼します」
向「失礼しますぅ…」
部屋に入って、呼び出し用のベルを鳴らす。経理部は数字に集中しているから、用があるときはベルを鳴らせ、という指示だ。わざわざ面倒臭いけど経理部を敵に回すとやっかいなので、みんな大人しく従っている。
チーン
と鳴らすと、がばっ！と顔を上げて。こっちに走ってくれたのが、噂の「阿部さん」。予想通り、阿部ちゃんやん。
阿「楠さんっ！こんにちは！」
A「あ、こ、こんにちは、あの、経費の申請に…」
阿「お預かりしますね、あー大丈夫です、落ちます落ちます、落とします。お預かりするね！」
A「ありがとうございます、お願いします」
ありがたいことにすっと受け取ってくれた阿部ちゃんの姿に若干引きつつ…くいくいと引かれる袖に、こーじくんの存在を思い出す。
A「あ、そうか。あの、阿部ちゃ…」
阿「阿部ちゃん！？阿部ちゃんって呼んでくれるの？」
A「あ、まちがった、阿部さん、これって落とせます…？」
涙目のこーじくんから受け取った領収書を阿部ちゃんに手渡す。一瞥して、はぁ、とため息付いて、こーじくんを睨む。あ、こーじくんがびくっとした。
阿「落ちるわけないだろ…」
A「やっぱかぁ」
向「ひ、ひぃ、そこをなんとか…」
阿「と、言いたいところなんですが」
A「え？」
阿「楠さんが俺のこと今後、阿部ちゃんって呼んでくれるなら、今回だけ特別に落とすよ」
A「え…えぇーー…」
謎の要望にマジで引きつつ…こーじくんの縋るような目に負けて…
A「わかりましたよ…阿部ちゃん…」
阿「やっっったぁ！！向井くん、今回だけだからね。先輩にもちゃんと言うんだよ」
向「おおきに！ありがとーーーございますっ！！！！」
はぁ…なんなんやマジで…
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作者名：まめ
| 作成日時：2023年8月13日 20時
