開店前 ページ31
繁華街。
いつものゲームセンター。
一人がつまらなくて向かったのはいつもの店。
DJブースで音と戯れていた亜嵐。
人の気配に顔を持ち上げた。
AL「開店前でーす。」
RO「うるせーよ。」
椅子に足を引っ掛けると、カウンターに座った。
ヘッドホンを置いて近づいて来る亜嵐は冷蔵庫を開ける。
AL「ご注文は？」
RO「ジンジャーエール。」
AL「500万円でーす。」
そう言いながら、滑らせた瓶を慣れた手つきでキャッチした。
カウンターの端で上手に開ける栓。
口に運びながら、ボーッと人のいないフロアを眺めた。
RO「こんな広かったっけ？」
AL「狭く感じるほどお客が入るって幸せだよな。」
RO「まーね。」
カウンターの内側から飛び乗る亜嵐は玲於の横に座る。
AL「どーしたんだよ。」
RO「別に。」
AL「別にって顔してなかったけど？」
膝を立てて、グイッと飲む炭酸飲料。
喉に沁みた。
RO「亜嵐くん。」
AL「んー？」
RO「ファーストキスって、奪ったことある…？」
AL「は？なにそれ。」
茶化して笑う。
RO「なんとなくしたキスが、相手のファーストキスだったら…どうしたらいいと思う？」
ピンと来た顔の亜嵐。
AL「Aか？」
RO「ちげーよ…。」
AL「この間は否定してたけど、ありゃ処女だなー。」
RO「だから、ちげーって。」
取り合ってもらえなくてふてくされた顔。
AL「玲於はどーしたいの？」
RO「え…？」
AL「その子とどうなりたいの？」
RO「どうって…。」
そんなこと…
考えたことねーよ…
AL「素直に認めてみなよ。」
RO「…何を？」
AL「自分の気持ち。」
亜嵐は瓶の中身を飲み干した。
AL「認めたら、素直に受け入れる。」
戸惑う顔の玲於を見て微笑む。
AL「好きなもんは好き。嫌いなもんは嫌い。得意でしょ？そういう線引き。」
玲於の横から離れてDJブースに戻った。
AL「大事なのはファーストキスを奪ったことじゃなくて、玲於がそのキスを大事に思えるかどうか、じゃない？」
大事に…？
頭の中に蘇る。
Aの涙。
俺…
最悪だな…
Aに叩かれた頬がズキンと痛んだ。
AL「手遅れになる前に、気持ちは伝えるべし！教訓だな。」
カウンターから勢い良く飛び降りてフロアの中央に立つ。
RO「言っとくけど、Aじゃねーからな！」
AL「はいはい。」
亜嵐が流す音楽に合わせて、玲於は一人踊っていた。
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作者名：mamario | 作成日時：2018年3月31日 7時
