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第二十三話 ページ35

鈴蘭side

主の知らないことなんてない。
そんなことなかった。馬鹿馬鹿しい。そんな考えを、一ミクロンでも持っていた自分を許せない。
そして、このことを自分に話さなかったAにも、真実を知っている勘久郎と憲剛にも、鈴蘭は怒りを覚えた。
けれど、過ぎたことをネチネチと言っていても仕方がない。一回、ゆっくりと深呼吸をして、二人を見る。
「勘久郎様、憲剛様。ありがとうございました。長居をしてしまって申し訳ありませんでした。それでは、失礼――」
「待つっスよ」
失礼致しましたと言おうとしたのを、勘久郎が遮る。
「もう外は暗い。送っていくっスよ」
そう言って、窓の鍵を閉める。
薄紫と薄橙の美しいグラデーションで彩られた空。
「勘久郎様、下心が丸見えですよ」
こんなこと、十二天将に言っていい言葉ではないが、明らかに目的が『鈴蘭を送る』ではなく『Aに会いに行く』なのが見え見えだ。
それに、もう会わないと誓ったのだろう。なら会いには行かないはず。一体、彼は何をしたいのか。
笑顔で指摘すると、悲しそうにクシャっと笑って鈴蘭に言った。
「バレました〜?実は一杯呑みたい気分だったんで、そのついでに送って行こうと思ってたんスよ〜」
そんな悲しそうな顔をして言っても、説得力なんて皆無。勘久郎様、ともう一度呼ぶと、本当に、心底悲しそうに、寂しそうに言った。
「我が儘っスよね。でも、もう一度だけ、もう一度だけ、Aの顔を見たい。駄目駄目な僕には、Aが必要なんスよ。昔の様に喜怒哀楽を分かち合えなくても、彼女の姿が見えるだけで、いいんス。って、何言ってるんスか僕。すみませんね〜、ただ、僕の幼馴染の長話のせいで鈴蘭さんが危険な目に遭うのは嫌なんで、送って行きまスよ」
幼馴染だ。Aとこの人は。
昔、Aも同じようなことを言っていた。
非力な自分を恨む。弱者である自分には、二人が必要なんだ。我が儘なのはわかっている。だけど、せめて、せめて二人と一回でいいから会いたい。そう、言っていた。
そのことを思い出すと、自然と口が動いた。
「いいと思いますよ」
その言葉に、勘久郎だけでなく、憲剛も目を見張った。が、それも束の間、二人の心は驚きから同情へと変わっていった。

『この人は、自分と同じだ』

「では、よろしくお願いします」
そう微笑んで、三人は水戸坂医院を出た。

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設定タグ:双星の陰陽師 , 水度坂勘久郎・雲林院憲剛 , 弓乃   
作品ジャンル:恋愛
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どこんじょう(処罰対象) - 弓乃さん» こちらこそよろしくお願いします! (2019年3月22日 21時) (レス) id: 45a23aa5e3 (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - どこんじょうさん» 遅れてごめん!明けましておめでとう!ID違うけど私だよ!今年もよろしくお願いします!!! (2019年2月3日 16時) (レス) id: 7a5e1ee815 (このIDを非表示/違反報告)
どこんじょう - 新年明けましておめでとうございます!今年も期待して続きを待っています! (2019年1月1日 22時) (レス) id: 5e33bfab9e (このIDを非表示/違反報告)
どこんじょう - 弓乃さん» いえいえ!ってか、じぶんのほうが頑張らなきゃいけないっていう...展開は重要ですのでじっくり考えてください!私はいつでも暇なのでいつまでも待てます!過去編は長くてもいいんじゃないかな?過去編って重要だし。頑張ってください! (2018年12月29日 17時) (レス) id: 5e33bfab9e (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - どこんじょうさん» どこんじょうちゃん!お久だね。今ちょっと展開を考えてて‥‥‥全然更新できてなかったんだけど、どこんじょうちゃんがそう言ってくれるなら頑張ろうかな。有難う。感心であってるよ。過去編長くてすまんね。才能、かぁ。私なんかは全然だよ、でもありがとうね。 (2018年12月28日 17時) (レス) id: 7a5e1ee815 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:弓乃 | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/novel/mamamitu/  
作成日時:2018年3月3日 20時

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