幼馴染からその先へ【双星の陰陽師】

第十九話 ページ29

憲剛side

霊符ホルダーの中には、韋駄天符・金剛符・剛腕符。そして、――それぞれ、十二天将玄武、青龍の霊符が入っている。
恐らく、美玖が「そいつら」と言っているのは十二天将の札で間違いはないだろう。ただ、それをどうしろというのか。まだ受け継いでもいたい青二才の憲剛たちに、この力が扱えるとは到底思えない。
「おら、言ってる事が分かんねえのか？ああん？」
物分かりの悪い奴らだな、と愚痴を零す。
「でもっ――」
「言い訳なんか聞きたいわけじゃねぇんだよ。わしは、呪装しろとしかいってねぇんだ。誰が言い訳を言え何て言った？」
勘久郎の言葉を遮り、鋭い視線で睨む。
「憲剛、お前も七恨縛鎖解いた後、すぐ呪装出来るようにしろよ。大切なもんのためなら、限界の一つや二つ、突破してみろよ。そんなこともできねぇんなら、さっさとこの場から消えろ。そんな奴らと一緒にいたら、わしまで腐るだろうが。まさか、そんな覚悟もなく、Aを守るとか言ってたんじゃねぇよな」
限界の一つや二つ突破するなんて、大切なものの為ならば、当たり前。
美玖だって、疲れているはず。呪文の詠唱には時間がかかる。その間は、自分たちに気を引き、倒さない程度に攻撃をして刺激し、阿月を守る。それを彼女は、自分たちに覚悟がなければすべて一人でやるつもりだ。美玖にとって一番辛いのは、祓わずに、地道に痛めつけること。彼女にとって可愛い愛弟子であるAを痛め続けるのは、本当はしたくないだろう。一気に祓っていいというのなら、まだ、そっちの方が楽だろう。痛め続ける。それは、同時に、美玖をも痛め続けることになるのだ。肉体的ではなく、精神的に。
美玖の言っていることは正しい。
ただ一つのことを除いて。
「美玖さん、そんなの間違ってるスよ」
それまで、少し弱気だった勘久郎が、大人でも怯みそうな視線を受け止め、微笑んでいた。優しく、微笑んでいた。
「僕は、Aや、憲剛とか、大切なものの為なら、僕の命なんて安いものスよ。僕は、守るといったものは、必ず守るっスから」
「勘久郎、馬鹿みたいなこと言うんじゃねぇよ。そんな言い方したら、今から死ぬみたいになんだろ？」
茶化したように、憲剛は笑って言う。
(そうだよな。美玖さんの言う通りだ。バカみたいだな、本当に)
「行きますよ！」
二人の目には、もう、迷いはなかった。

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