幼馴染からその先へ【双星の陰陽師】

第三十一話 ページ43

やはり、ケガレを普段から見ているからだろうか。お化け屋敷も、単なる子供騙しにしか思えないのだ。
茜色の瞳を細めて、ドヤ顔をする阿月。無性にそれが癪に障り、口を出す。
「じゃあ何時間寝たんだ？」
「二時間です！」
「それを仮眠程度と言うんだよ！」
「えっ、そうなんですか！？」
驚いたと目を見開く彼女に、溜息をつく。結婚してもこれとは。些か不安になる。
籍を入れ、子を儲かれば少しは丸くなると思っていたが、変わらなかった。旦那に同情の念を抱く。こんな嫁を持って、苦労が付いて回るだろう。喜怒哀楽がはっきりと表情に出るのは良いのだが、ころころ変わる気分に追いつけていけないのが本心だ。
「それよりも、Aは何かしていませんか？迷惑かけていますか？」
心配そうに眉をハの字にする阿月を見て、嗚呼、親娘だなと改めて感じる。
Aは母親似なのは、外見に始まったことではない。いつだって自分よりも人の身を案じる、優しい性格も、母譲りだろう。勿論、父である凛凪黄金に全く似ていない訳では無い。おっちょこちょいなところや、好きなモノにはとことん夢中になるところは、父似だ。…たまに傷だが。
陰陽師界きっての鴛鴦夫婦の娘なら、親に反発して反抗的になるか、純粋で無邪気になるかの二択。Aは後者であって、更に四つ下の弟を溺愛している。この家族が喧嘩をしているところは見たことがない。周りから引かれるほど仲が良いのだ。
「いや、別に…そういや、今日は雨だな」
ふと目に入った空模様をつぶやくと、釣られて阿月も窓際に来る。
「そうですね。ここ最近雨ばかりで、なんだか退屈です」
口を尖らせながら言う彼女に、はぁ？と素っ頓狂な声を出す。
退屈とは。確かにそうだが、何歳だ。三十代後半の人間が言うことじゃ無いのでは、という考えが頭を過る。だが、能天気な目の前の人物はかなり実年齢と精神年齢が離れていると感じるため、今更という気もしなくはない。交互に浮かんでは沈む馬鹿みたいな言葉に苦笑する。
「あ…」
「ん？どうした？」
「た、大変です、美玖様！」
あまりにも慌てた様子で言うものだから、何かあったのかと冷や汗をかく。
「傘を、Aに渡し忘れてしまいました……」
「はぁ？」
本日2度目のはぁ？に、友人は舌を出して微笑んだ。

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