【序章】 1 ページ1
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11月7日。
私の恋人だった人と、友人の命日。
数年前、萩原研二は仕掛けられた爆弾を解体中に殉職した。
その数年後、松田陣平は同じ犯人によって仕掛けられた爆弾を解体中に殉職した。
全く同じ日に。
その墓石の前で手を合わせる。
立ち込めた線香とタバコの煙の香りがやけに鼻についた。
忘れろとは言わない、だが思いつめすぎるな。一体何人の人にそう言われてきたか。
もう7年も経った。それでもあいつのことが頭から離れない。離れてくれない、離れてほしくない。そんな思いがぐるぐる、ぐるぐる。
｢…私はどうすればいいんだろうね、研二｣
つ、と刻まれたその名を指でなぞると冷たかった。
もう、その優しくて暖かい体温はどこにもない。なのにそれが恋しくてたまらない。
気づいたら頬を熱いものが伝っていた。
｢…三上｣
｢…降谷、久しぶり｣
どれほどの間感傷に浸っていたのだろうか。
気付いたら随分と懐かしい人物が私の後ろに立っていた。
降谷零、私の同期、仲が良かった友人の1人。
その手には水桶と仏花が握られていた。私と同じで墓参りだろう。
仲が良かった同期の中で現役なのはたった2人、私と降谷だけ。他の4人は殉職してしまった。仕事熱心と褒めるべきか、はたまた馬鹿野郎と怒るべきか。私的には後者ね。
降谷はその青い瞳を伏せて影を落とし、私を何も言わずに見つめていた。
そして私の横に腰を下ろして黙って手を合わせ始める。
その横顔を眺め、ふと思ったことを口に出した。
｢ねぇ、降谷。もし、もしもだよ。過去に戻れたら皆を助けたいと思う？｣
｢どうしたんだ急に｣
警察学校時代の友人というのは、特別な絆で結ばれる。
だからこそ友人達が死んだと聞いた時は本当にショックで何日か寝込んだほどだった。
特に一番最初に死んだ恋人の時はもう立ち直れないんじゃないかってくらい塞ぎ込んだ。
どうにかこうにか今こうしてここにいる訳だけど。
もしも、みんなが今も私たちと一緒に笑い合う未来があったなら、どんなに幸せだったろうか。
何気ない幸せは失って気付くって言うのを痛感させられたものだ。
｢なんとなく思っただけ、気にしないで｣
｢そうか…｣
降谷は何も聞き返そうとしない。意図的なのかは知らないけど、とにかくそれが、今の私にはそれが都合よかった。
供えられたタバコの火が、静かに最後の紫煙を燻らせた。
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作者名：珠々菜 | 作成日時：2019年1月4日 13時
