藤井くんの彼女(仮)

雨と距離 ページ20

「何で断らへんの？」




そう言いながら近づいて来る藤井くん。






「え、っと、」




「頼まれたんやろ？


見てた」






「うん、


でも、この後何もないし、」






近い距離が気まずくて



しゃがみ込み、ちりとりでゴミを集める。








「.......それに、お母さんがいつも言ってるねん、


周りの人には、優しくしなさいって

だからその、」





「.....…優しく、ねぇ…」





小さく呟いた声が聞こえなくて




「え？」



顔を上げた瞬間






「っ、」






そこには目を合わせるようにしゃがみ込んだ

視界いっぱいの藤井くんの顔。





慌てて立ち上がろうとするも




「なぁ」



という声と、

掴まれた右腕によって阻まれた。







「なぁ、


優しくするのはいい事やけどさ


嫌な事はちゃんと嫌って言わないと。




平野さんがしんどくなるで？」







いつもと違って口調は少しきついけれど


掴まれている腕に入る力は優しくて




私のことを心配してくれているんだと思うには十分だった。






「.......ありがとう。」





藤井くんの目を見てそう言うと


彼はにっこり笑った。






「ま、こうやって２人になれるし


俺は嬉しいけど」





「なっ、」





「ふはっ、顔まっか笑」









藤井くんがそんなこと思ってくれているなんて思ってみなかったけど






私と同じ気持ちでいてくれているんやって



その事が何より嬉しかった。

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