［茶］シュガーポットの棺で眠る ページ34
#イタコ人狼よりイタコem
廃墟となった古臭いアパートの一室。宙に手を伸ばすと冷たい何かに触れる感覚が指先を伝わり、全神経を震わせた。『何か』とは言わずもがな彼女の事で、姿を見ることは叶わず啜り泣く声だけが部屋を満たしている。「殺して、死なせて」と嘆いてももう既に死んでいるのだから、死者が死を望むなど滑稽もいいところだと薄っぺらい感想が浮かんだ。そのまま彼女の温もり(温もりといっても温かい訳ではないが、伝わる冷たさは紛う方なき彼女の体温である)を享受していると、パチンと叩かれる痛みがはしる。
「泣かないで下さいAさん、貴方を泣かせたいが為に貴方を殺した訳ではないのですから。そんなに泣くならもう私は此処に来ませんよ？いいのですか？」
虚空を眺めつつ心を鬼にして言い切ると、嗚咽を飲み込む音が聞こえた。こうでもしないと彼女は泣き止まない上に、生憎涙する女性に興奮する性的な歪みは持ち合わせておらず、意中の彼女の涙には困惑と苛立ちが湧き上がってくる。雨漏りしたような染みが腐りかけの木の床に広がり、アリス宛らに小さな涙の池を形成した。ぐす、という幼子が鼻を鳴らす音と共に雨はやみ池は乾き始めた。
「いい子ですねAさん。私が此処に来なくなってしまったらAさんは永遠に一人ぼっちなんです、それはAさんが一番よく分かっている筈でしょう？悲しいですね、誰にも気付かれることなくずっと独りで此処に縛られるなんて」
「…みすてないで」
か弱く細々とした声が響き、心地良い高音が鼓膜を揺らした。いい子のうちは見捨てたりしませんよ、と再び宙に手を伸ばすと今度は弾かれずに冷たい感触がいつまでも残り続ける。微かに震えが伝導し、自分を殺した犯人に縋るしかない哀れな地縛霊に微笑が溢れた。
悲しいだろうに、恨めしいだろうに、出来ることなら私を呪い殺せるものならどれだけ良いだろう。そんな彼女からの殺意も依存も全て愛おしい。
腰掛けている床に寝転ぶと、ギシリと木が軋んだ。彼女の血液が染み込んだ床は随分と腐敗が進んでいる。綺麗な人型を描く血痕に覆い被さると、そういう行為を彷彿とさせる体制ができあがる。もっとも彼女の魂はまだ宙を漂っており自身の下にはいない訳だが。
流石におままごとは手短に済ませ、立て付けの悪い扉を開いて部屋を出る。差し込む朝日が眩しい。
「では、おやすみなさいAさん。また今夜」
お姫様はもう眠る時間だ。
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ゆずは - コメント失礼します。ヤンデレにはまった時期があり実は少しずつ、小説を見させていただきました。返信、遅くなってしまいましたが、Twitterの方でも頑張ってください。これからも、応援させてもらいます。 (2022年3月14日 19時) (
レス) @page42 id: 083d316892 (このIDを非表示/違反報告)
ミア - 今までひっそりと応援させていただきました。ありがとうございました。貴女のこれからに溢れんばかりの幸があらんことを。 (2022年3月13日 1時) (レス) id: 022985fa21 (このIDを非表示/違反報告)
誠(プロフ) - レス機能が休暇中なのでお一人お一人にお礼を申し上げることは出来かねますが、いつも暖かなコメントをありがとうございます。私は幸せ者です、この棺の箱庭の蓋は閉じてしまいますが、ひっそりと文字書きは続けていきますので、よろしければこれからもお付き合い下さい (2022年3月12日 4時) (レス) id: 1fa7f4b5d2 (このIDを非表示/違反報告)
鵯(ひよどり)(プロフ) - お疲れ様に御座います。貴殿に幸あらんことを。徒然たる貴殿が真に誠に美しい。 (2022年3月12日 1時) (レス) id: 72d1a498da (このIDを非表示/違反報告)
塩酸(プロフ) - この界隈の小説の作者様の中で1番大好きです。普段から素敵な作品をありがとうございます。 (2022年3月1日 21時) (レス) id: 5d3824b2a8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：誠
| 作者ホームページ：http://around-the-clock
作成日時：2021年9月4日 23時
